建設業界の商習慣の歴史と現状2(逆算プランニングその4.1)

戦前から現在までの、

・普請
・一括請負方式
・分離発注方式

これら3つの特徴を長所短所に分けて書きます。
その前にまず、3つに共通する事柄をおさえておきます。

「物理的な家づくり」自体は、

・普請であれ、
・一括請負であれ、
・分離発注であれ、
どれも同じです。違いはありません。

建築の法則に基づいた設計図書が現場の作法に則り、専門工事業者が腕を奮い工事管理者が現場をコーディネートすることで家は完成します。材料と人の手と言葉を用いて、皆で協同して編み上げてゆくものが家であり建築物です。

これから述べるのは、家をつくること自身の外側、いわば「家づくりの仕組みの仕組み」についての違い、特徴です。

【1:戦前からの普請について】
建築主(旦那)が準備した資金で材料を買い付け、出来高報酬制で各専門工事業者を雇い入れ、設計と現場管理を大工棟梁に委任するスタイルです。直接買い付けたり雇ったりするところから直営方式ともよばれ、現在もこのやりかたは大工さんの直営工事として続いているようです。

長所は、
支払いが直接であるために各専門工事業者の顔が見える。専門工事業者(大工棟梁)が設計者と現場管理者を兼ねるので、情報伝達のロスがなく作業効率がよいことが挙げられます。

短所は、
大工工事以外の仕様選定は、原則建築主と各専門工事業者との個別・直接のやりとりとなるため、全体のデザイン・バランス取りと工事費の管理は建築主の力量に任せられます。このことによりプロの建築主、つまり「旦那」であることを求められる傾向が強いといわれています。

【2:一括請負について】
ひと言で言えば、「旦那」でなくとも建築主になれることを目指したシステムです。総合建設業者が材料、各専門工事業者の手配と支払い、現場の品質管理、工程調整をおこない、それら全体の費用はあらかじめ結ばれた(その家の完成についての)請負契約によって確定しています。

長所は、
あらかじめ請負契約書が交わされ工事費が確定していることにより、住宅ローンを組むことが可能です。家全体についてのコーディネートは総合建設業者に任せておけばよいので、建築主の負担は軽いです。

短所は、
実際の工事にあたる各専門工事業者は、元請けである総合建設業者を介さなければ建築主は関与できない「下請け工事業者」となってしまい「顔」が見えません。つまり、重層構造が情報伝達のロスやミスの可能性、こまかな変更や修正に対してのレスポンスや精度、そして複層ぶんのコストにおいて、「不利側」の結果を招く要因として潜在しています(改善の取り組みについては後述します)。

【3:分離発注方式について】
建築主が専門工事業者に工事費を直接支払うところは1の普請、直営工事と同じですが、2の一括請負同様に「旦那」であることは求められません。設計と現場での采配、工事費支払いの管理は建築設計事務所の建築士がおこないます。

建築士は建築主に対して建築の専門についてのアドバイスをおこない、設計積算、公的申請、見積集計、専門工事業者選定の助言、現場での工程管理、品質管理などのコーディネート・マネジメントの業務をおこないます。設計事務所への業務報酬と各専門工事業者への工事費とは、別個に契約書に基づいて支払われます。

長所と短所、
直営方式の短所である「建築主への負担」が軽減されますが、一括請負方式にくらべれば、負担は若干あります。一括請負方式の短所である「下請け重層構造」を解体して且つ、設計+現場管理=一人なので、情報伝達の効率、そして作業効率が高いです。

※直営方式(設計+現場管理+大工=一人なので)は、更に高効率です。

分離発注方式では、各専門工事業者と個別に請負契約を締結するので、その内容に基づいて住宅ローンを組むことができます。

まとめて比較すると、

1:直営方式(普請)は、業務効率は高いが建築主への負担が大きい
2:一括請負方式は、建築主への負担は軽減されるが、業務効率は低い
3:分離発注方式は、1と2の中間

といったように、どのシステムにも一長一短があります。そしてこの3つについて、「顕在する建築コストの量」をモノサシにしてそれぞれを計ると、

1:直営は、建築主への負担分がコスト減となる
2:一括は、軽減された建築主への負担の分だけ、つまり業務効率の低さがコスト増を生む
3:分離は、1と2の中間

であることが見えてきます。

次回「家づくりのあたらしい動き」と題して、最近目にする一括請負方式の原価公開について書きます。

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