「弁当忘れても傘忘れるな」とは、気象に関しての、山陰地方に昔から伝わる言葉です。私がはじめて耳にしたのは祖父からで、今からおよそ半世紀前の、まだ幼い時分でした。
よく雨が降るからしっかり備えておこう、という心構えを伝えるこの言葉ですが、正直に告白すればそのころからずっと、日々暮らす境港を含めた山陰地方に対して、そう極端に「雨が多いなあ」といった実感を持てずにいました。たしかに梅雨時などは相応に降るものの、長じて移り住むこととなった、国内のいろいろな地域の空模様と比べても、殊更に雨が多いという印象がなかったのです。
「気象庁 過去の気象データ」のキーワードでネット検索をすると、1870年代から現在までの、国内各地域にある気象台(近年ではアメダスを含む)の観測データを閲覧することができます。これまで設計にとりかかる前に、その地域の積雪量や、主な風向きなどを調べておくことはあったのですが、降水量については「あの日に降った雨は何ミリだった?」と後追いで調べる程で、場所も山陰両県に限られました。今回、上に書いた長年の疑問を解消すべく、国内の主な降水量について調べてみたのですが、いろいろな発見がありました。
まずはじめに、弊社近くの境観測所(鳥取県境港市 東本町)のデータをご紹介します。
取り扱うデータは、ハンドリングしやすいように、2000年から2022年までの23年間の、その年に降った雨の量(=年間降水量)とし、いったん23年間の総量を出してから、1年あたりの平均値(総量÷23年)を算出しました。そうして出した境港市の、年間降水量の平均は、
1,898ミリメートル(= 約1.9メートル)
でした。
鳥取市や松江市、浜田市などの鳥取・島根県平野部のデータを見比べても、おおよそこの(境)くらいの値でしたから、この「1,898ミリメートル」を、山陰地方の雨降りの基準値とします。
次に、お隣岡山県の、岡山地方気象台(岡山市)のデータを同じように調べてみると、
年間降水量の平均 1,138ミリ(境より▲760ミリ)
と、さすが「晴れの国」と呼ばれるだけあって、雨の量も少ないようです。こうして比べると、やはり山陰は雨が多いのかなあとも思えるのですが、これだけでは比較対象が少なすぎです。そこで、朝のテレビニュースの天気予報に出てくる日本地図を頭に浮かべながら、そのほかの地域についても同様に調べました。すると、
福岡管区気象台(福岡市) 1,690(境より▲208)
広島地方気象台(広島市) 1,593(境より▲305)
大阪管区気象台(大阪市) 1,357(境より▲541)
名古屋地方気象台(名古屋市) 1,608(境より▲290)
東京管区気象台(千代田区) 1,650(境より▲248)
仙台管区気象台(仙台市) 1,262(境より▲636)
札幌管区気象台(札幌市) 1,155(境より▲743)
といった結果でした(単位はミリメートル)。
札幌の雨量が少ないのは、北海道には梅雨が存在しないことが影響しているようで、上記結果のほかに、北陸地方と東北地方の日本海側について、県庁所在地の気象台データを調べると、ほぼ境(=山陰)と同じくらいの降水量であることもわかりました。
このようにして見ると山陰地方は、「日本国内で、比較的雨がよく降る地域のひとつである」と言えそうです。
折角なのでさらに、雨の多い地域であると言われる尾鷲市(三重県)や新宮市(和歌山県)、室戸市(高知県)の年間降水量についても調べたのですが、長くなったので、この続きは後編に書きます(3月10日の更新予定です)。