「個別で具体的な」耐震性の検証(前編)

前回、「極めて稀な地震」の1.5倍の力に対して、倒壊したこのモデルの

窓(奥側と両側面)の面積を減らし、窓下の小壁(こかべ)が増えた状態に修正して、再度同じ地震波でのシミュレーションをおこなったところ、倒壊を防ぐことができました。

このことから、木造軸組工法の耐震性能の向上には「(耐力)壁の量が大きく関与している」と言えそうです。では、壁量を一定以上確保すればそれで必要充分、なのでしょうか?

今回は、建物の耐震性と「壁」の関係について、もう一段階掘り下げた検証をおこなってみます(追記1:「個別で具体的な」耐震性の検証は、前編、中編、後編と3回に分けてお送りします)。

先程の、倒壊を防いだモデルを上の画像のように、壁の量は等しいまま、正面左側窓の位置を変更して、同じ「極稀地震の1.5倍」で揺らしてみます。すると、

倒壊してしまいました。そこで今度は、

窓面積をさらに小さくして窓下の壁量を増やしてから、再度「極稀1.5倍」で揺らしてみます。すると、

倒壊を防ぐことができました。

ここまで一連の「壁量増加→倒壊を防ぐ→壁バランスがズレる→倒壊→さらに壁量増加→倒壊を防ぐ・・」といった、対策と結果の繰り返しから見えたことについて以下、今回のまとめとして記します。

柱・梁・土台に囲まれた耐力壁と、窓上・窓下などの小壁を併せた「壁の総量」は、その建物の耐震性向上に大きく関与しています。

壁の量と、壁のバランス・釣り合いは、例えば、壁バランスの不均衡を、壁量を増やすことで補ったり、逆に、バランスの良い壁の配置のおかげで、必要とされる、相対的な壁量を減らすことができるなど、お互いが補完しあう関係にあります。

また、今回のモデル作成とシミュレーションを通して実感したことを一言添えると、壁量と壁バランスの「どちらかを優先しなければいけない」場合は、まずは壁量の確保を優先しておくことで、それ以降の作業をスムーズに運ぶことができるようです。

そして前回、前々回からの繰り返しになりますが、初期段階の平面・断面計画の「匙加減」は、建物の耐震性能を考えるうえで、とても重要です。

次回の「中編」では、屋根(天井)面、いわゆる「水平構面」の強さに応じて、建物の耐震性能がどのように変化してゆくのか、(具体的なモデルを具体的な地震波で揺らして)検証します。

追記2:
ここで「極めて稀な地震」「稀な地震」について、お浚いと補足説明をさせてください。

「極めて稀な地震」とは、建築基準法等で定められた、「数百年に一度程度発生する」地震の力で、「大地震」とも呼ばれます。具体的には、建物重量の100%の水平力(=建物を、縦方向に90度回転させた状態を保ったときに、建物に加わる重力)です。震度6強、地動加速度300~400gal程度が、おおよその目安とされています。この地震の力によって「倒壊しない」性能が、建築基準法により定められた、2段階の基準のうちの「2段回目」の性能(建物重量の100%の水平力で倒壊しない)です。

「稀な地震」とは、「数十年に一度程度発生する」建物重量の20%の水平力で、震度5強、地動加速度80~100gal程度が、おおよその目安です。この地震の力によって「損傷しない」性能が、建築基準法により定められた、2段階の基準のうちの「1段回目」の性能(建物重量の20%の水平力で損傷しない)です。

住宅の耐震性能を測る「モノサシ」

住宅に求められる耐震性能の基準について、現在の法令・基準をお浚いします(追記:長くなったので、今回一緒に予定していた「個別で具体的な内容」は、次回にあらためます)。

「住宅の品質確保の促進等に関する法律」(第3条と、告示第1346号の「日本住宅性能表示制度基準」)において、住宅に求められる耐震性能は、

極めて稀に、数百年に一度程度発生する地震による力に対して『倒壊、崩壊しない』」且つ「稀に、数十年に一度程度発生する地震による力に対して『損傷を生じない』」住宅は「耐震等級1」(建築基準法同等)で、

上記地震力の1.25倍に対して「倒壊、崩壊しない(損傷を生じない)」ものは「耐震等級2」、

同様に1.5倍、に対しては「耐震等級3

といったように、3段階に分けて定められています。

具体例として以下、「建物(の構造モデル)を wallstat で実際に揺らしてみた動画」をご覧ください。


この建物の挙動(応答)が、「極めて稀に発生する地震」の力に対して「倒壊、崩壊しない」一例です。

次に、同じ建物を「極めて稀に発生する地震の1.5倍の力で揺らしてみます。すると、

倒壊してしまいました。

では、この建物の窓の面積を小さくして(つまり、壁を増やして)から、もう一度「『極めて稀に発生する地震の1.5倍」で揺らしてみると、

かなり揺れましたが、倒壊には至りませんでした。

最後に、前回ブログの建物を同様に、「『極めて稀の1.5倍」で揺らします。

これらの「見える化」を通してわかった、耐震性能を考えるうえでの個別で具体的な内容については、次回のブログにてあらためます。

パソコンでできる「振動台実験」

前回に引き続いて、今回は wallstat を用いた耐震シミュレーション、「パソコン上の振動台実験」の様子をご紹介します。

モデル建物は、一年ほど前に当ブログでご紹介した計画案「山陰の気象条件に沿った住宅」です。壁の位置など、平面計画そのものには変わりはないのですが、条件がより「厳しく」なるように、小屋裏の「2/3をロフト、残りの1/3は勾配天井(吹抜)」とした、断面の変更を加えています。上の写真の建物正面が南側、の想定です。

模型を手に取って、いつもの手順で構造図を起こし、その構造図を wallstat でトレースして、実際に揺らしてみたのが下の動画です。入力地震波は1995年の阪神淡路大震災、神戸海洋気象台(神戸市中央区)で計測されたものを用いました。

次は、東側から見た、

建物の挙動(応答)です。

実験結果を数値から振り返ります。

今回の建物の最大変形量は、X(東西)方向が16.1mm、Y(南北)方向が24.8mmでした。

上の動画で、色が「グレーから、黄色」に変わった、開口を通して奥のほうに見える壁は、その壁が「建築基準法等により2段階に定められている、変形量の規定値(今回のケースでは1段階目が22.5mm、2段階目が90mm)の1段階目を上回った」つまり、最も動いた(24.8mm)部分であることを示しています。

実験結果の「全体から見た位置づけ」と併せた、個別で具体的な内容については、次のブログであらためて述べますが、「必要な量を満たし、かつバランスの良い耐力壁の配置」、言い換えれば「初期段階の平面計画」がいかに重要であるか、といった基本事項について、今回強く再認識することとなりました。

wallstat はじめました。

5月に入って好天が続き、暑いほどになりましたね。しばらく更新が空いてしまいました。申し訳ありません。

今回は、木造軸組工法の数値解析ソフトウェアである、wallstat(ウォールスタット)のご紹介と、wallstat の弊社業務への活用について、お知らせします。

wallstat は、

「パソコン上で建物を3次元的にモデル化し、過去に起きた地震や想定される巨大地震など、様々な地震動を与え、木造住宅の地震による揺れを動画で確認(見える化)することができるソフトウェア」(「(一社)耐震性能見える化協会」様HPより抜粋」)です。木質構造の研究者、技術者を対象に、現在WEB 上で無償公開されています。

「見える化」された、木造住宅の地震による揺れは、

ご覧のようなCG動画(これは2005年に公開された実大振動台実験を再現したものです)で確認することができます。

このように、「個別の具体的な」建物を「個別の具体的な」地震波によって揺らすことで、個別で具体的な建物の挙動、例えば各階それぞれの、壁の変形量はどのように異なるのか、あるいは柱にかかる引き抜き力はどこが最大になるのかなど、各部分の詳細ひとつひとつが明らかにされます。そしてそれら詳細のひとつひとつは、建物に本当に必要な、言い換えれば「適切な」構造強さを実現するための大切な拠り所となります。

上記見える化協会様のHPにもあるように wallstat は、2010年の公開からバージョンアップを繰り返し、現在「バージョン5.1.12」です。さらに暮らしやすい世の中の実現を目指し、改正を繰り返す建築基準法などの各法令と同様、このソフトウェアも「最新鋭であるけれども、究極には途上」の状態を保ちながら、これからもさらなる更新が進められるようです。

実際の建物を人工地震で揺らして挙動を確かめる、振動台での実大実験と同等の検証をパソコン上でおこなえること、そしてその検証を踏まえた改善、再度の検証、さらに再度の改善・・・といった繰り返しをパソコン上で何度でもおこなえることは、地震に強い住宅、建築物の実現に向けて、私たち実務者にとって、これまでよりも一段高いレベルの設計・監理を実現できる強力な武器となります。

そして、建物の揺れを具体的・詳細なCG動画で検証(見える化)できることは、クライアント様など一般の方々からの「なぜそこに壁・柱が必要なのか?」などの質問に対して、構造上の意図をご説明する際のツールとして理想的です。

以上のことから弊社では、自社の設計・監理業務において、wallstat を最大限活用することにしました。

折角なので、モデル化したプランをwallstat で「揺らしてみた」様子について、その動画を次回のブログでご紹介します(5月17日更新予定です)。