この前の明け方、新聞を取りに玄関まで向かう廊下の窓が、その時間ではないほどに明るくなっていました。雪です。

積もった白さに反射する、月のひかりを満たしたその明るさが、寒さや圧雪による通勤時の渋滞に結びつくことを体験的に知っている身としては、まずは玄関戸を開けて外に出て、どのくらい積もったんだろうと確認したのですが、長靴なしでも歩けるくらいでまずはひと安心です。でもそういえば今年はそれほどの積雪はまだないよなというか、もうないのかなあと新聞をかかえながら背中を丸め部屋に戻りました。

あまり積もらなくなった最近について思うときに、裏返しでどうしても思い出してしまうのが、3年前の年末年始の大雪です。あのときも玄関戸を開けて外にでて、ともかく通りまで通じるようにと雪かきしてから庭を計ったらいちばん深いところで70センチの積雪でした。雪ずりの重みで、立てていた車のリヤワイパーが折れていました。

積雪の荷重計算をする際に、この地域の平野部で想定されている設計積雪量はおよそ70センチ、3年前の庭とほぼ同じです。なので字面だけならばとても馴染みがあって、多雪地域に定められている1メートル以上という値を下回るその数値にはそれほどの脅威を感じていなかったのですが、あの日からの70センチは、電線や電話線が切れた、蝋燭と石油ストーブと携帯ラジオの暗くて寒い大晦日だったり、かいてもかいてもなくならないスコップの重みだったり、そのあとにやってきた筋肉痛だったりの、身体感覚とセットになった70センチになりました。山あいにお住まいの方には笑われてしまいそうですが70センチ、侮れません。

きっとすべてのことがらを体験することは叶わないのでしょうが、僅かな体験が、未知なることがらについて想像するための足がかりにはなってくれるはずで、人間にできることの僅かさとすごさのあいだを揺れながら謙虚に進むことが、建築屋としてはきっと健全な姿なのかなあと思いながらです。渋滞を招くほどではなかったわずかに積もった雪は、朝日が昇ってお昼になる前には融けて、夕方にはほとんど姿はありませんでした。

もうしばらくしたら3月、このまま春がくればいいのにとも思うのですが、そういえば以前、3月末に積雪があって、現場の杭打ちで大変だったのをおもいだしました。あれはたしか7年前の春でした。

予報によると今週末は天気は荒れて、どうやら雪も降るようです。スリップなど気をつけて、どうかよい週末をお過ごしください。(渡辺)