「私家版 家づくりガイド」その6(音とニオイ)

本格的なシアタールームやピアノ室などの防音室ではなくても、音についての一定の配慮は必要だろうと考えています。ニオイを伴って流れる空気の向きについても同様です。

音もニオイも、感じ方によってかなりの幅を持つようですが、だからといっておおよその目安も示さない、逃げ口上のような「幅があります」には、違う思惑を感じます。

音とニオイについて、具体的に検討すべき守備範囲は、ケースによってはそれこそ相当に幅広くもなりますが、今回はそのなかで必須と思われる、

・建物内のトイレの配置と天井、壁の仕様、
・外部からの騒音対策

について書きます。

ますは音の特性についてのおさらいです。

音は、空気と固体の震動により伝わります。つまり、隙間がなく震動しにくい(=比重の大きい)床、壁、天井と開口部を持つ部屋には、音は伝わりにくくなります。

カラオケルームの入口のドアが気密用パッキンがついたやたらと重いものであったり、天井や壁の下地に石膏ボードを二重張りしたり鉛の板を貼ったりするのは、空気の流れを遮断して壁や天井の音による震動を抑えた防音室とするためです。

音のエネルギーの強さは距離の2乗に反比例するといわれています。同じ音源で、距離が2倍に延びると、音の強さは1/4に減少します。4倍だと1/16です。

これら音の特性を踏まえて、トイレの配置と、天井・壁・開口部などの仕様について考えると、一般的な木造住宅の天井と壁の下地は石膏ボードなので、質量(比重)は十分です。出入口戸の木材も遮音性はあります。

あとはいかに距離をとって隙間からの音漏れを防ぐかが「肝」になってきます。

天井と壁の隙間については、比較的容易に防ぐことができるのですが、問題は出入口の隙間です。特に引込戸の場合、構造上必ず、戸と壁のあいだが3ミリ程度空くので、ここから音が漏れます。ドアの場合、気密性は高いのですが、換気扇の給気用にドア下端をくり抜くと、やはりそこから音漏れします。つまり、特別な対策を講じないかぎり、トイレの音は出入口から漏れます。住宅の音漏れ対策は、まずはここがスタートラインです。音は出入口から漏れます。

ならば出入口を主要室からできるだけ離したり、あるいはひと部屋、または物入れなどを介すかたちでトイレを配置するプランとすると、まず問題にはならないレベルに達します。

ニオイについては、水洗であればあまり気にしなくても大丈夫でしょうが、水洗でなければ、ほぼ上記の音についての配慮と同じことが言えます。またできるかぎり外に面して、窓から換気ができるようにしておくとよいようです。
※掃除のしやすさについては、別の機会に触れます。

次は外部からの騒音対策です。

JISの規格からみると一般的な住宅に使用される窓ガラスはおおよそ、おとなりさんの話し声は遮断できるけれども、主要道路に面した騒音を完全には防げないくらいの遮音性能です。

こうした場合の遮音性向上には、この窓を二重窓(窓+窓)にしてやることが有効で、大掴みにいえば上記のような主要道に面していても、二重窓にすることによって、室内は図書館ほどになります(最近では、既存住宅用改修用の後付けタイプもあります)。

そして、木造住宅の外壁の遮音性能は、ほぼ二重窓と同程度です。ペアガラスは断熱性能は高いですが、遮音性能は通常のガラスと大差ありません。

建築基準法には戸建住宅への遮音の規定は無いのですが、日本住宅性能表示基準には使用するサッシの遮音性能(JIS)に応じた等級分け(1~3級)がなされています

外部騒音の遮音については、日当りの確保や視界の「抜け」や通風など、その敷地が持つ長所を最大限に活かすことと併せて検討すべき項目なので、一概にこれだということはできません。

原則として、騒音の方向には大きな開口を設けないで成り立つ計画をまずは考えて、それがむずかしいようであれば、プラスアルファの工夫、または製品の活用を検討する。このあたりの検討の順序は、トイレの音対策と同じです。

次回はバリアフリーについてです。

「私家版 家づくりガイド」 その5(シックハウス)

ふた昔くらい前に完成間もないお宅を訪問すると、鼻がツーンとしたり人によっては気分が悪くなることがありました。「ツーン」の原因は、主に仕上材に含まれている溶剤や接着剤の成分が揮発しておこるものだと言われていました。

そうした家に住まわれて頭痛や湿疹がでたり、さらにはめまいや呼吸器の疾患など、日常生活に支障をきたす深刻なケースもおこって、その数は次第に増加していったようです。

これら一連の症状は「シックハウス症候群」と呼ばれ、社会的な問題として1997(平成9)年ごろからニュースなどでもたびたび取り上げられています。

疲れを癒す場所の家で健康を害してしまうことは、家づくりに関わるものとしてはなんとしても避けなければなりません。今回は法令の整備など、その対策の現状を整理して、実際の設計と監理業務において気をつけるべきポイントについて書きます。

シックハウス症候群のおもな原因とされるのは、揮発性有機化合物とよばれる化学物質です。厚生労働省は2000(平成12)年、これらのうちの13種について、室内濃度指針値(「シックハウス問題に関する検討会」中間報告書)を示しました。

下記がその内訳で、舌を噛みそうな名前が並びますが、これらはみな、住宅に使用される接着剤や塗料、防腐剤、防カビ剤、防蟻剤に含まれている(いた)ものです。

①ホルムアルデヒド
②トルエン
③キシレン
④パラジクロロベンゼン
⑤エチルベンゼン
⑥スチレン
⑦クロルピリホス
⑧フタル酸ジnブチル
⑨ラトラデカン
⑩フタル酸2エチルヘキシル
⑪ダイアジノン
⑫アセトアルデヒド
⑬フェノブカルプ

厚労省の指針を受けた国交省は2003(平成15)年、建築基準法を改正しました。その内容を要約すると、

・ホルムアルデヒド(厚労省指針の①)の使用制限
・クロルピリホス (  〃      ⑦)の居室への使用禁止
・室内換気の基準と換気設備設置の義務付け

が定められました。これらは「シックハウス法」とも呼ばれています。

日本住宅性能表示基準には、設計の仕様は定められていません。よって等級づけもありません。そのかわりに、建物の完成時に室内の化学物質濃度を測定して、その値を表示することができるよう、定められています。

測定の対象となるのは、建築基準法とは異なり、厚労省の濃度指針のなかの、

・ホルムアルデヒド
・トルエン
・キシレン
・エチルベンゼン
・スチレン

の最大5物質(※)です。
※ホルムアルデヒド以外は任意選択です。

最後に実務上において、心がけていることを書きます。

法令改正以前から自然素材使用の割合が多く、機械換気システムも用いていたので、改正点について特に違和感もなく対応できた印象だったのですが、いろいろな事例を見た正直な感想として、条文の文言だけの判断では、本来の趣旨を外して十分な効果を得られなかったり思わぬ不具合が発生する可能性もあるなあと思っています。

私は以下の3つに気をつけています。

①十分な自然換気と室内通気ができるような窓位置と形状の工夫
②機械換気のショートサーキット防止
③通気確保と音漏れ対策の両立

①については、
風通しのよい家であることは、その住宅の室内環境と省エネルギー性、耐久性にも関わるきわめて基本的なことがらです。天気のよい日には窓をあけたくなる家にしましょう。これも換気を促すという意味では有効なシックハウス対策です。

②について、
給気口と排気口の位置が近すぎると、給気された空気がほぼそのまま排気されてしまい、本来の目的である、室内空気を入れ換えることができません。このことを平面計画の際に頭の隅に入れて、ところどころで位置の確認をしておくことが肝要です。

③について、
空気の流れる道が部屋を横断する場合、たとえばドアの下端をくりぬいて通気としたときに、そこから音が漏れます。最近は建物の気密性が高くなって他に音の逃げ場がないので、条件によってはこの音は予想以上に響きます。

次回は「音とニオイについて」です。

「私家版 家づくりガイド」その4(火災につよい家)

総務省消防庁の資料によると、2010(平成23)年の年間出火件数は50,006件で、1,766人の方が命を落とされています。

そのうち住宅の火災は14,271件で、建物火災の9割以上を占めています。最も多い出火原因は放火です。次がたばこの不始末、三番目がコンロとなっています。

1,070人の方が亡くなられて、その主な原因は、火災発見の遅れによるガス中毒と火傷です。亡くなられた6割強が65歳以上の方です。こうしたなかで、住宅にできることは何なのか、現在の法令等を整理しながらこの機会に、あらためて考えてみます。

法令などをみると、

都市計画法、建築基準法、消防法、日本住宅性能表示基準に、住宅の防災に関してそれぞれの規定と基準が定められていますが、それらは大掴みにいえば、

火災に対して、より注意をはらわなければならない地域の指定と、

建物を、

・燃えにくく、
・避難しやすく、
・早期の発見と通報ができて、
・消防活動の妨げとならないようにする

規定と基準です。

都市計画法には、

火災が起きたときに、その炎が燃え広がらないように、古くからの木造の建物が密集している地域や中心市街地などを 「火災に対して、より注意をはらわなければならない地域」 として指定するよう定められています(境港市ならば、境港駅から東に数キロ、米子市ならば米子駅より北に、灘町・角盤町にかけての地域が「準防火地域」として定められています)。この地域の建物はその他の地域に比べて、より高い防火性能を求められます。

建物についていえば、建築基準法には、

・建物自体の耐火性能、
・隣からの類焼防止と隣への延焼防止、
・火を使う部屋に使用する材料の制限、
・避難時の安全性確保

について、地域、用途、規模、構造のそれぞれに併せて基準が定められています。一般的な規模の住宅では、これらの基準はその一部の適用を受けるのみですが、適用外の法令でもたとえば避難規定(避難経路を炎で塞がれたときのために、別方向の避難路も設けるなど)など、住宅にも参考にできるものがあります。

消防法では、

火災発生を音でしらせる住宅用火災警報器(ホームセンターなどで売っている白い円盤状のものです)を新築の家、既に建っている家を問わず、すべての住宅への取り付けが義務化されています。

日本住宅性能表示基準ではこれらのほかに、火災警報器の設置数について、消防法を上回る基準(※)を設けて等級を定め、3階からの脱出対策についても、基準と等級が定められていています。
※消防法には台所への設置義務はありません

火災の歴史を経て整備された各種法令と基準は、先人の経験と防災への願いが詰まった、活かすべき財産です。それらを鑑みて、では自分に何ができるのだろうと考えたことを記して、この回のまとめにします。2つあります。

①「まずは法令を遵守すること」
なんだそんなの当たり前だろと言われそうですが、その通り当たり前のことです。けれど当たり前のことが当たり前にできていれば耐震偽装もメルトダウンも起こらなかったわけで、実地では、ここが大切なスタートラインなのだと思います。

②「複数の要素を単純なひとつのかたちとして練り上げること」
たとえば平面計画のときに、玄関~ホール~リビングへと繋がるメインの動線と、水周りから勝手口~サービスヤードに繋がるサブの動線を整理して分けることは、本来は使い勝手のためのものですが同時に避難経路を複数確保することにもなります。広めの収納スペースを設ければ余計な物が散らからずに済みますが、それが火元をあらかじめ取り去ることになったり避難経路を妨げない要因になるかもしれません。

そんなふうに、基本設計のなかで、ある課題と他の課題とが同時に解決できる道筋(というかアイディアというか)が現れて、それは設計があるレベルまで練りあがった指標のようなものだと理解しています。

狭小敷地での三階建て住宅の設計事例を振り返ってみても、例えば避難動線と玄関位置と駐車スペースが、並列した課題として同時に解けてゆくタイミングがあって、その道筋への共通のカギは何かと考えると、それはおそらく選択肢のうちで「よりシンプルに」なるような判断を積み重ねた成果なのだろうと思います。

次回は、「家づくりガイド その5」、シックハウスについてです。

「私家版 家づくりガイド」その3(長持ちする家)

家づくりにおけるアンケート調査で、関心の高いことがらの上位ふたつは、

①構造
②断熱

です。

安心して心地よくすごせることとは、その家に求められる基本であり、最低限クリアしなければならないハードルです。そしてそのハードルは、家が建っている間ずっと超え続けなければなりません。

今回は、そのハードル超えを担保するもの、家の耐久性について書きます。

まずは公による基準、仕様について触れておきます。

日本住宅性能表示基準には、

・耐久性と
・メンテナンスのしやすさ

について仕様が定められていて、等級分けされています。これらは長期優良住宅の認定基準のひとつです。

仕様についておおまかに言えば、3つに分かれていて、

①建物への水分(水蒸気)のコントロール
②点検口など、メンテナンスを見越した設計の具体的な指標、
③耐久性からみた樹種の分類、

です。

①では、腐朽やサビやカビやシロアリの発生を防ぐよう、水・湿気が過剰に流れたり、留まったりしない工法が定められています。

以前の ブログ で触れましたが、あたためられると上昇する空気の特性をいかした、外壁通気と小屋裏換気の工法は、結果的にに漏水防止と除湿の役割も果たしています。

②は、配管と構造体との関係や点検口設置の義務、点検スペースの寸法など、③には、湿度の多い地盤面付近に使う木材は、ヒノキやヒバ(または薬剤処理品)などの使用が定められています。

地味であまり目立たないですが、どれも重要です。

①についての不具合のひとつに「壁体内結露」という現象があります。

流れ込んだ空気が壁の中で冷えて露となって(結露して)留まり、その水分がカビなどを招くものですが、結論からいえば、この結露の原因は「不適切な空気の流れ」です。そこに使用される素材自体の違いは直接には関係ありません。

最近でこそ、この種の誤解はだいぶ減ってきた印象ですが、どうぞ誤解なさらぬよう。

このように、耐久性やメンテナンス性を向上させるための仕様はひととおり揃って、私の知る限り、一般に普及している印象でもあります。

これらは設計、施工時にも一目では判らないほどに、仕様・コストのどちらともに些細な違いでしかないのですが、完成後数十年におおきな違いを生む要因だろうと、私は考えています。

次回は、火災時の安全性について書きます。

「私家版 家づくりガイド」その2-5(夏涼しく冬暖かい家⑥)

冬の室内環境において、快適に過ごしていただくためのふたつの「隠し味」についてです。あれば室内環境のよさを引き立ててくれますし、無いとちょっと物足りないです。

それは何かというと、このふたつ、

・室内空気の均一化と、
・日射取得、

です。

まずはひとつめの、室内空気の均一化についてです。

・暖房機などで室内にて作り出される熱と
・室内から外に逃げてゆく熱との釣り合いがとれて、

計算上の室温は20℃とはじき出されても実際には、リビングは30℃でトイレは5℃かもしれません。建物全体としての熱のつりあいが取れていても、その分布が人間のスケール感に馴染むものでなければ、その家の室内環境は快適であるとはいえません。

暖められた空気は上昇する(冷やされた空気は下に留まります)ので平屋であれば天井付近、2階建てであれば2階部分に暖気は集まります。

夏であれば高窓をあけて排気すればよかったのですが、冬にそれでは暖房計画が成り立ちません。ふた昔くらい前の断熱性能の住宅で「吹き抜けの家は寒い」といわれた原因は、主にこのあたりにあります。

ではどうすればよいか?

水平方向と垂直方向、それとガラス窓付近をあわせた室温の不均一を解消するためには、2つの対処法が考えられます。


家の中を「複数の小さな部屋の集まり」に区切ってそれぞれを小さな室容積とし、感じられる温度差を できるだけ小さくする方法(暖房機は各主要室に分散配置して個別運転)と、


(空調的には)ワンルームの室内に暖房機1台の全館暖房として、上部に溜まった暖気をファンなどで 床下に強制的に移して(暖気はまた上昇するので)室内空気を縦方向に循環させる方法

のふたつです。

どちらにも一長一短はありますが、

①の「小分け分散型」は、

・夏季の通風通気のルートをどう確保をするかということ、
・いわゆるヒートショック、冬場の急激な温度低下による血管障害への対策をどうするのか、

②の「ワンルーム全館型」は、
・室温の均一さをつくりだしながら必要なプライバシーの質をいかに落とさないか、

が鍵になります。

※コストについては設置時・運転時をあわせて考えると、どちらもおおよそ「とんとん」です。

次はふたつめの日射取得、陽だまりをいかしてにつくるかです。

冬の太陽の軌道は夏とは違ってかなり低く、最も高い軌道をとる夏がオーバースローならば、冬はスリークオーターで投げる投手の腕の振りのように、水平線近くを鋭く掠めます。朝7時過ぎに東南東から昇って夕方17時すぎに西南西の空に沈むほどに、その日照時間は短く、日射量も夏のおよそ半分です。

太陽が真南に位置する正午の太陽高度は約30度です。このときに高さ2メートルの掃き出し窓に射し込む日差しの奥行きは、三角定規を頭に浮かべながら計算すると、和室の8畳間なら床の間の手前まで届きます(2.0*√3≒3.4メートル)。

以前のブログを振り返っていただいて、夏至のときの奥行きは40センチですから、南面に可能なかぎり大きな開口をとることは、冬の日差しを取り込むにも夏の日射を遮るにも、どちらにも都合がよいことがわかります。

以前、太陽光発電パネルを設置検討する際に、パネルメーカーのエンジニアさんにいろいろお伺いする機会があったのですが、パネルの発電効率を検討する際にもっとも注意しなければならないこととは、パネルの種類でも設置する角度でも地域でもなく、

「実際に設置するその場所に太陽光を遮る障害物がないこと」で、

それさえ確認できれば、まあなんとか発電計画は成立するのだそうです。

冬の日射取得についても同じで、障害物を避けてセオリーどおり、南面に開口を設けることが可能な配置・平面計画であれば、日射量が少ないといわれる山陰地方であっても、晴れた日にはそこが冬の陽だまりとなります。

朝起きる前の布団の中を例に出すまでもなく、冬のぬくもりは気持ちよくて愛おしく、陽だまりも日射量の少ない冬だからなおさら貴重といえるのかもしれません。それらをどこまでプランに反映できるのかを確認する作業は、なんだかほっこりしますね(^^)

以上、「暑さ寒さが負担とならない、ほどほど快適な家」について、まとめてみました。

夏と冬の熱の言い分をよく聞いて、うまく棲み分けができると、必要以上の動力に頼らなくともほどよい室内環境をつくることができます。

次回は「長持ちする家」について、長持ちさせるための現在の仕様や施工性について書きます。