「個別で具体的な」耐震性の検証(延長前半)

総務省統計局の「2023年(令和5年)住宅・土地統計調査」を見ると、昨年9月時点での、国内の木造一戸建住宅の総数は、2578万戸となっています。

その総数を「建築基準法の、『改正ごと』の3つのグループ」、具体的には

1:~1980年 ≒「新耐震基準以前」の住宅
2:1981年~1999年 ≒「新耐震基準(改正により+壁量増)」の住宅
3:2000年~2023年 ≒「2000年基準(改正により+壁バランス、柱接合部強度に基準)」の住宅

に分けて、それぞれを集計すると、各グループとも「ほぼ均等に全体の1/3ずつで 、凡そ800万戸くらい」の割合と戸数であることがわかりました。

ここまで、「『個別で具体的な』耐震性の検証」と題して、上の画像の建物モデルをベースに、条件を変えながら wallstat によるシミュレーションを繰り返しました。

そこから「見えた」事柄を以下、あらためて書き出します。

1:壁(小壁)を一定量確保してください。
2:壁(小壁)は、バランスよく配置しましょう。
3:バランスは、壁(小壁)の増量で、ある程度補うことができます。
4:屋根や火打、中間階の床等の水平構面についても考慮しましょう。
5:水平構面も壁量と壁バランスで、ある程度補うことができます。
6:部材接合部は必要な強さを確保しましょう。これは必須です。

この6つ(に、「構造部材を守る、堅実な『雨仕舞い』」を加えた、計7つ)の項目は、木造軸組工法の耐震性を確保する上で、守るべき大切な基本です。

冒頭で触れた総務省統計の、木造一戸建住宅の総数約2500万戸のうちの「2000年基準」以外の住宅、つまり柱の柱頭・柱脚の接合部についての法令が未整備だった時代の住宅は、(「新耐震」+「新耐震以前」の合計なので)全体の2/3 、約1600万戸※存在します。

※簡略化のため、ここから「既に耐震改修工事を終えた住宅」を差し引く作業は、今回は省きます。

木造軸組工法の耐震性能において、壁量とともに、接合部の引抜強度(基本項目の6番目)は、前回ブログのシミュレーションでお示ししたとおり、非常に重要です。

けれども現実的には、全体の2/3に及ぶ「1999年以前」の住宅に対する耐震改修の計画の際、接合部の補強や金物の設置が構造上、納まり上、予算上等で困難なケースに対して、どのように改修に取り組めばよいのか、といった問題も浮かび上がってきます。

前置きが長くなりましたが、ここからが今日の本題です。実は、上に書き出した「6(7)つの、耐震性確保のための基本」には、その続編である「応用・実践編」が存在しています。

そこでは、基本だけでは「回らない」ケースに対して、現行法の基準を満たすための指針が整備され、その指針を基にした製品開発、そして計画ごと・現場ごとの工夫が、現在進行形で実践されています。

今回は、そうした応用・実践編のなかの、2つの「個別で具体的な事例」をご紹介します。

まずは1つ目です。

「柱頭・柱脚の金物がなく、柱が土台から外れることで倒壊(崩壊)に至った」上の動画のモデルの、「全ての壁と小壁」に構造用合板を貼って、再度揺らしてみます。

すると、

Y方向の変形が目立つものの、柱は柱頭・柱脚ともに梁・土台から外れることはなく、倒壊を防ぐことができました。

次に、上の動画、「片筋交いで補強をおこなったものの、柱頭・柱脚に金物が無かったために、柱脚が土台から外れたことをきっかけに、倒壊(崩壊)したモデル」に手を加えます。

具体的に言えば、「このモデルの柱頭・柱脚の、引抜(金物)の強さが「0」ではないものの、それが建築基準法の要求値よりも『小さい』」場合のシミュレーションをおこないます。

柱頭・柱脚部分について、梁・土台への接続方法は、伝統的な木造建築の技術である、「差し込み栓打ち」を採用しています。

上の動画の建物モデルに、建築基準法(告示1460号)で本来求められる柱頭・柱脚の引抜(金物)強さは、10段階(「1」が最も弱く、「10」が最も強い)の、「7」(または「3」)です。対して「差し込み栓打ち」は、「2」の強さしかありません。

それでは、揺らしてみます。

今回も、Y方向の変形が目についたものの、柱は柱頭・柱脚ともに梁・土台から外れることなく、倒壊を防ぐことができました。

2つの事例が倒壊を防いだメカニズム、耐震改修に関する指針、そして「制震」の考えを取り入れた3つ目の事例のご紹介については、長くなったので次回の「延長後半」までお待ちください。

次回は、12月13日(金)の更新予定です。