「個別で具体的な」耐震性の検証(延長後半)

前回の 「応用・実践編」での修正モデル がなぜ倒壊しなかったのか、掘り下げます。

まずは、全ての壁と小壁に構造用合板を増貼りした「修正モデル1」 についてです。

倒壊を防いだ要因は、2つです。

壁(小壁)に増貼りされた構造用合板は、図 のように 、多数の釘を打ち付けることで「柱と梁・土台のフレームを一体構造」にして、地震の揺れ(水平力)に抵抗しますが、「一体構造」となっているために、合板と釘は結果的に、柱の引抜力にも抵抗しています。これが1つ目の要因です。

2つ目の要因は、柱が「両隣の、2枚の合板に挟まれた」状態となることで、その柱に生じる一方の壁からの「引張力」は、他方の壁(小壁)からの「圧縮力」で減じられます。

この2つによって、上の修正モデルでは、フレームの一体化と、柱を挟む合板相互で生じる「引張力と圧縮力」によって、柱の引抜力は減少して土台から外れず、倒壊(崩壊)を防ぐことができたと考えられます。

<追記1>
加えてここで、構造用合板などを用いた耐震改修を支援する、最新の手法についてご紹介させてください。

それは、「愛知建築地震災害軽減システム研究協議会」様 が提案されている「A工法」で、様々な仕様の耐力壁について、実験に基づいた強さを定量化したものです。WEB上 にその一覧が公開されています。

例えば、A工法のひとつに、「A-335」 という耐力壁があります。A-335 は「室内の天井・床を壊さないままで、真壁柱と構造用合板を釘打ちにより一体化する」耐震改修を想定した仕様です。

この仕様は、(天井裏と床下部分の柱・間柱、梁・土台にも釘打された)標準的な耐力壁 の70%の強さを見込めることが実験により確かめられていて、鳥取県を含む多くの自治体において、A工法を用いた耐震改修設計・改修工事は、助成制度の対象として認定・運用されています。

次は、壁に片筋交い補強(青の斜線が片筋交いです)をおこない、柱頭・柱脚を伝統的な接合方法である、差し込み栓打ちとした「修正モデル2」についてです。

このモデルには、柱が全部で12本あり、内訳は、隅柱が4本、その他の柱が8本です。これら12本の柱頭・柱脚に建築基準法で求められる引抜抵抗は、10段階評価(「10」が最も大きく「1」が最も小さい)の、隅柱が「7」、その他の柱が「3」です。

これに対して「差し込み栓打ち」の、建築基準法上の引抜抵抗は、10段階の「2」です。つまりゼロではないものの、このモデルに本来求められる強さ(7、3)には達していません。

このような、「柱の接合部が本来の強さではなく、壁の強さの全てを支え切れない」組み合わせに対しては、以下のような評価を可能とする、指針が整えられています。

指針について、かいつまんで言うと、
「耐震改修工事において、柱頭・柱脚の接合部が、本来求められる、必要な引抜抵抗に満たない耐力壁は、満たない分を『低減』して、実質的な耐力壁の強さを算定する」ことができます。

次に「算定」について具体的に記せば、低減には(一財)日本建築防災協会発行の 「2012年改訂版 木造住宅の耐震診断と補強方法」 の低減係数Kj を用います。参考例として挙げると、上の動画モデルの壁は、「本来の、85%の耐力とみなせる」と評価することができました。

<追記2>
先日、国土交通省から「令和6年能登半島地震における建築物構造被害の原因分析を行う委員会は11月1日、令和6年能登半島地震における建築物の構造被害の原因分析を行い、対策の方向性を示した中間とりまとめを公表します。」旨の プレスリリース がありました。

そのなかで、木造建築物に関しては「集計対象4909棟のうち、建築時期が『新耐震基準以前(旧耐震)』の倒壊・崩壊率は 19.4% (662棟)、 『新耐震以降2000年改正以前』が 5.4%(48棟)、『2000年改正以降』については 0.7%(4棟)であった」、「地方公共団体の補助を受けて耐震改修をおこなった、『元・旧耐震基準』の38棟のうち、倒壊・崩壊した建築物は確認されなかった」などの報告がありました。

<追記3>
念のために申し添えると、上の「新耐震基準」と「2000年改正(現行の耐震基準)」について、違いのよくわからない曖昧な表現の記事等を稀に目にしますが、不毛な誤解を防ぐ観点から区分すると、この二つは全くの別物であると捉えてください。ここでは割愛しますが、詳細についてご関心をお持ちの方は、今年1月の弊社ブログ、 新耐震基準は、「最新」ではありません をご一読いただければ幸いです。

では次に、「制震」の考え方を取り入れたシミュレーションをご覧ください。下の動画は、8枚ある全ての壁に「制震テープ」※を用いたモデルを「極稀1.5倍」で揺らしたものです。

「緑色の斜線」で示されている壁が、制震テープのデータを反映させた壁です。

効果について、製造元の アイディールブレーン(株)さん の説明文を以下、転載します。

「制震テープ®は高層ビルの制震装置に用いられる粘弾性体を、木造住宅用として両面テープ状に加工したもので、大地震時に柱と梁が平行四辺形に変形するのに対し、面材は長方形のまま抵抗するため相互間にズレが生じ、釘が曲がったり折れたりします。そのため住宅全体が緩み、地震の度に変位はドンドン大きくなっていきます。このズレる部位に厚さ1mmの制震テープ®を挟むことによって、振動エネルギーが熱エネルギーに変換され揺れが軽減されます。」

※制震テープ® は、アイディールブレーン(株)の登録商標です。

最後に、前回・今回の「応用・実践編」での、個別で具体的なシミュレーションなどを通して「見えた」事柄を以下に記します。

1:壁(小壁)増設は、全体に満遍なく設けるのが「肝」です。
2:「部分的に強すぎる」配置は避けましょう。
3:「柱のみに釘打ちの構造用合板」の強さは、0ではありません。
4:標準壁の7割の強さを発揮することができます。
5:柱接合部が現行法に適合しない壁でも、強さは0ではありません。
6:その壁の強さは、標準壁の2~10割の範囲で評価できます。
7:新耐震は「最新」の基準ではありません(最新は2000年基準)。
8:制震の概念を取り入れた意欲的な製品が開発されています。

現状にあわせて、できる限りの耐震改修をおこなうことは、決して無駄ではなく有効・有益です。お住いの耐震性について、少しでも不安に感じられる方は、公的な助成制度を活用して耐震診断をお受けになることをお勧めします(まずは、お住いの自治体窓口にご相談を)。