「昭和100年」の建築基準法

2025年の今年は、ふたつ前の元号を起点にすると、「昭和100年」にあたるのだそうです。4月に建築基準法の改正(施行=実際の運用)が控えていますが、サンフランシスコ講和条約調印を翌年に控えた昭和25年5月24日に制定された建築基準法は、あと半年ほどで「75歳」を迎えます。

今回の改正は、 一年前の当ブログ でも触れたように、住宅が主な対象である「小規模木造建築物」においては、建物重量の算定や柱断面、耐力壁(準耐力壁)などの項目について、これまでに比べて、より個別の事例に沿った詳細な検討ができるよう、アップデートされます。

また、耐震改修工事を伴うリフォーム・リノベーション工事については、(平屋建ての一部を除いて)新築工事と同様、着工前には上に記した検討に対しての、行政庁または指定検査機関による「確認済み」が必須となります。

加えて続けると、耐震改修計画において、壁内や天井裏などに隠れている柱、梁、土台や筋交いの配置や、あるいは基礎鉄筋の有無についての調査・確認は、その建物の設計図書の照会と建築年代からの類推に併せた、(上の写真のような)調査機器による現地での実測が有効です。

柱、梁、土台や筋交いなどの構造部における、建築基準法改正の変遷について、大掴みには、

・旧耐震(新耐震基準以前):~1981年5月31日
・新耐震基準:1981年6月1日~2000年5月31日
・2000年基準:2000年6月1日~現在

と分けるのが一般的ですが、基礎について言えば、住宅の基礎に鉄筋が「必ず」必要である、と法に謳われたのは実は割と最近で、2000年(平成12年)の改正時です。それ以前を遡ると、1971年(昭和46年)に「基礎が、一体のコンクリート造または鉄筋コンクリート造の 布基礎 とすること」と定められており、これは十勝沖地震での教訓から学んだ改正であったようです。

とはいえ、では例えば1990年代に建てられた住宅の、基礎の主流は「無筋」であったのかと自身の記憶を辿ってみたのですが、当時、私が目にした住宅の基礎は、そのすべてが鉄筋コンクリート造でした。今回、あらためて調べて知ったのですが、1980年(昭和55年)に住宅金融公庫(現在の住宅金融支援機構)の仕様に「鉄筋コンクリート基礎」が追加されたことにより、法令の未整備が実質的に補われていたようです。

明けましておめでとうございます。

あたらしい一年がはじまりました。

本年も、地に足のついた住まいづくりをクライアント様、職方の皆さんなど、その計画に関わるチーム全員で進めてゆきます。安心して心地よく、住み続けることのできる家づくりを念頭に、引き続き精進を重ねて参ります。

皆様には変わらぬご愛顧のほど、何卒宜しくお願い申し上げます。

2025年1月1日

渡辺浩二

年末のご挨拶

今年も、残すところあと僅かになりました。冬至である今日は、ご存じのように一年で最も「昼の時間の短い」一日です。

つまり、明日からは少しずつですが、日の出が早まり日の入りが延びてゆきます。そしておそらくこの先、たぶんだいたいお正月の朝あたりに私は、「なんだか、夜が明けるのが早くなったなあ」と、素直に喜んでいそうです(毎年そう^^)。

コロナ禍のはじまりから随分経ちますが、習慣とは恐ろしいもので、外出先から戻っての手洗い、うがいは現在も継続中です。そのおかげか「風邪をひかないチャレンジ」も おかげさまで途切れることなく、5年目に突入しています。

今年は、弊社への身近なトピックを含んだ 日本国内のさまざまな出来事について、気になったり考えさせられたりすることが多い一年でした。

せっかくの機会なので今、そうした出来事を思い出し、頭のなかで並べ直してから少し距離を取って、その様子を遠巻きに眺めてみたのですが、そこから共通して読み取れたのは <開示、更新、分岐点>の、三つの言葉でした。来年、世の中がどのように進んでゆくのか見当もつきませんが、「今」の在り様に目を逸らさない姿勢や態度は、より一層大切になるだろうとも感じています。

以上を踏まえ、そして、だからこそ私はこれからも「明日は今日よりも、もっとよい日になるだろう」と考えることは変えずに、自分にできることを精一杯、できる範囲で続けてゆこうと思います。

おかげさまで今年も健康で、現場での事故も無く、一年を無事に過ごすことができました。家づくりに関して、そして建築全般について、皆様にお知らせしたい話題を可能な限り当ブログでお伝えできるよう、引き続き精進してまいります。最新の話題とともに、時折の「お蔵出し」にもご期待いただきながら、来年もまた変わらずお立ち寄りいただければ幸いです。

尚、弊社の年末年始の休業期間は下記のとおりです。

(休業期間)
12月28日(土)から1月5日(日)まで
※新年は1月6日(月)より、業務開始します。

時節柄、くれぐれも体調など崩されないよう、どうぞご自愛ください。
来年も変わらぬご高配を賜れますようお願い申し上げ、年末のご挨拶とさせていただきます。

それでは皆様よいお年を^^/

渡辺浩二

「個別で具体的な」耐震性の検証(延長後半)

前回の 「応用・実践編」での修正モデル がなぜ倒壊しなかったのか、掘り下げます。

まずは、全ての壁と小壁に構造用合板を増貼りした「修正モデル1」 についてです。

倒壊を防いだ要因は、2つです。

壁(小壁)に増貼りされた構造用合板は、図 のように 、多数の釘を打ち付けることで「柱と梁・土台のフレームを一体構造」にして、地震の揺れ(水平力)に抵抗しますが、「一体構造」となっているために、合板と釘は結果的に、柱の引抜力にも抵抗しています。これが1つ目の要因です。

2つ目の要因は、柱が「両隣の、2枚の合板に挟まれた」状態となることで、その柱に生じる一方の壁からの「引張力」は、他方の壁(小壁)からの「圧縮力」で減じられます。

この2つによって、上の修正モデルでは、フレームの一体化と、柱を挟む合板相互で生じる「引張力と圧縮力」によって、柱の引抜力は減少して土台から外れず、倒壊(崩壊)を防ぐことができたと考えられます。

<追記1>
加えてここで、構造用合板などを用いた耐震改修を支援する、最新の手法についてご紹介させてください。

それは、「愛知建築地震災害軽減システム研究協議会」様 が提案されている「A工法」で、様々な仕様の耐力壁について、実験に基づいた強さを定量化したものです。WEB上 にその一覧が公開されています。

例えば、A工法のひとつに、「A-335」 という耐力壁があります。A-335 は「室内の天井・床を壊さないままで、真壁柱と構造用合板を釘打ちにより一体化する」耐震改修を想定した仕様です。

この仕様は、(天井裏と床下部分の柱・間柱、梁・土台にも釘打された)標準的な耐力壁 の70%の強さを見込めることが実験により確かめられていて、鳥取県を含む多くの自治体において、A工法を用いた耐震改修設計・改修工事は、助成制度の対象として認定・運用されています。

次は、壁に片筋交い補強(青の斜線が片筋交いです)をおこない、柱頭・柱脚を伝統的な接合方法である、差し込み栓打ちとした「修正モデル2」についてです。

このモデルには、柱が全部で12本あり、内訳は、隅柱が4本、その他の柱が8本です。これら12本の柱頭・柱脚に建築基準法で求められる引抜抵抗は、10段階評価(「10」が最も大きく「1」が最も小さい)の、隅柱が「7」、その他の柱が「3」です。

これに対して「差し込み栓打ち」の、建築基準法上の引抜抵抗は、10段階の「2」です。つまりゼロではないものの、このモデルに本来求められる強さ(7、3)には達していません。

このような、「柱の接合部が本来の強さではなく、壁の強さの全てを支え切れない」組み合わせに対しては、以下のような評価を可能とする、指針が整えられています。

指針について、かいつまんで言うと、
「耐震改修工事において、柱頭・柱脚の接合部が、本来求められる、必要な引抜抵抗に満たない耐力壁は、満たない分を『低減』して、実質的な耐力壁の強さを算定する」ことができます。

次に「算定」について具体的に記せば、低減には(一財)日本建築防災協会発行の 「2012年改訂版 木造住宅の耐震診断と補強方法」 の低減係数Kj を用います。参考例として挙げると、上の動画モデルの壁は、「本来の、85%の耐力とみなせる」と評価することができました。

<追記2>
先日、国土交通省から「令和6年能登半島地震における建築物構造被害の原因分析を行う委員会は11月1日、令和6年能登半島地震における建築物の構造被害の原因分析を行い、対策の方向性を示した中間とりまとめを公表します。」旨の プレスリリース がありました。

そのなかで、木造建築物に関しては「集計対象4909棟のうち、建築時期が『新耐震基準以前(旧耐震)』の倒壊・崩壊率は 19.4% (662棟)、 『新耐震以降2000年改正以前』が 5.4%(48棟)、『2000年改正以降』については 0.7%(4棟)であった」、「地方公共団体の補助を受けて耐震改修をおこなった、『元・旧耐震基準』の38棟のうち、倒壊・崩壊した建築物は確認されなかった」などの報告がありました。

<追記3>
念のために申し添えると、上の「新耐震基準」と「2000年改正(現行の耐震基準)」について、違いのよくわからない曖昧な表現の記事等を稀に目にしますが、不毛な誤解を防ぐ観点から区分すると、この二つは全くの別物であると捉えてください。ここでは割愛しますが、詳細についてご関心をお持ちの方は、今年1月の弊社ブログ、 新耐震基準は、「最新」ではありません をご一読いただければ幸いです。

では次に、「制震」の考え方を取り入れたシミュレーションをご覧ください。下の動画は、8枚ある全ての壁に「制震テープ」※を用いたモデルを「極稀1.5倍」で揺らしたものです。

「緑色の斜線」で示されている壁が、制震テープのデータを反映させた壁です。

効果について、製造元の アイディールブレーン(株)さん の説明文を以下、転載します。

「制震テープ®は高層ビルの制震装置に用いられる粘弾性体を、木造住宅用として両面テープ状に加工したもので、大地震時に柱と梁が平行四辺形に変形するのに対し、面材は長方形のまま抵抗するため相互間にズレが生じ、釘が曲がったり折れたりします。そのため住宅全体が緩み、地震の度に変位はドンドン大きくなっていきます。このズレる部位に厚さ1mmの制震テープ®を挟むことによって、振動エネルギーが熱エネルギーに変換され揺れが軽減されます。」

※制震テープ® は、アイディールブレーン(株)の登録商標です。

最後に、前回・今回の「応用・実践編」での、個別で具体的なシミュレーションなどを通して「見えた」事柄を以下に記します。

1:壁(小壁)増設は、全体に満遍なく設けるのが「肝」です。
2:「部分的に強すぎる」配置は避けましょう。
3:「柱のみに釘打ちの構造用合板」の強さは、0ではありません。
4:標準壁の7割の強さを発揮することができます。
5:柱接合部が現行法に適合しない壁でも、強さは0ではありません。
6:その壁の強さは、標準壁の2~10割の範囲で評価できます。
7:新耐震は「最新」の基準ではありません(最新は2000年基準)。
8:制震の概念を取り入れた意欲的な製品が開発されています。

現状にあわせて、できる限りの耐震改修をおこなうことは、決して無駄ではなく有効・有益です。お住いの耐震性について、少しでも不安に感じられる方は、公的な助成制度を活用して耐震診断をお受けになることをお勧めします(まずは、お住いの自治体窓口にご相談を)。

「個別で具体的な」耐震性の検証(延長前半)

総務省統計局の「2023年(令和5年)住宅・土地統計調査」を見ると、昨年9月時点での、国内の木造一戸建住宅の総数は、2578万戸となっています。

その総数を「建築基準法の、『改正ごと』の3つのグループ」、具体的には

1:~1980年 ≒「新耐震基準以前」の住宅
2:1981年~1999年 ≒「新耐震基準(改正により+壁量増)」の住宅
3:2000年~2023年 ≒「2000年基準(改正により+壁バランス、柱接合部強度に基準)」の住宅

に分けて、それぞれを集計すると、各グループとも「ほぼ均等に全体の1/3ずつで 、凡そ800万戸くらい」の割合と戸数であることがわかりました。

ここまで、「『個別で具体的な』耐震性の検証」と題して、上の画像の建物モデルをベースに、条件を変えながら wallstat によるシミュレーションを繰り返しました。

そこから「見えた」事柄を以下、あらためて書き出します。

1:壁(小壁)を一定量確保してください。
2:壁(小壁)は、バランスよく配置しましょう。
3:バランスは、壁(小壁)の増量で、ある程度補うことができます。
4:屋根や火打、中間階の床等の水平構面についても考慮しましょう。
5:水平構面も壁量と壁バランスで、ある程度補うことができます。
6:部材接合部は必要な強さを確保しましょう。これは必須です。

この6つ(に、「構造部材を守る、堅実な『雨仕舞い』」を加えた、計7つ)の項目は、木造軸組工法の耐震性を確保する上で、守るべき大切な基本です。

冒頭で触れた総務省統計の、木造一戸建住宅の総数約2500万戸のうちの「2000年基準」以外の住宅、つまり柱の柱頭・柱脚の接合部についての法令が未整備だった時代の住宅は、(「新耐震」+「新耐震以前」の合計なので)全体の2/3 、約1600万戸※存在します。

※簡略化のため、ここから「既に耐震改修工事を終えた住宅」を差し引く作業は、今回は省きます。

木造軸組工法の耐震性能において、壁量とともに、接合部の引抜強度(基本項目の6番目)は、前回ブログのシミュレーションでお示ししたとおり、非常に重要です。

けれども現実的には、全体の2/3に及ぶ「1999年以前」の住宅に対する耐震改修の計画の際、接合部の補強や金物の設置が構造上、納まり上、予算上等で困難なケースに対して、どのように改修に取り組めばよいのか、といった問題も浮かび上がってきます。

前置きが長くなりましたが、ここからが今日の本題です。実は、上に書き出した「6(7)つの、耐震性確保のための基本」には、その続編である「応用・実践編」が存在しています。

そこでは、基本だけでは「回らない」ケースに対して、現行法の基準を満たすための指針が整備され、その指針を基にした製品開発、そして計画ごと・現場ごとの工夫が、現在進行形で実践されています。

今回は、そうした応用・実践編のなかの、2つの「個別で具体的な事例」をご紹介します。

まずは1つ目です。

「柱頭・柱脚の金物がなく、柱が土台から外れることで倒壊(崩壊)に至った」上の動画のモデルの、「全ての壁と小壁」に構造用合板を貼って、再度揺らしてみます。

すると、

Y方向の変形が目立つものの、柱は柱頭・柱脚ともに梁・土台から外れることはなく、倒壊を防ぐことができました。

次に、上の動画、「片筋交いで補強をおこなったものの、柱頭・柱脚に金物が無かったために、柱脚が土台から外れたことをきっかけに、倒壊(崩壊)したモデル」に手を加えます。

具体的に言えば、「このモデルの柱頭・柱脚の、引抜(金物)の強さが「0」ではないものの、それが建築基準法の要求値よりも『小さい』」場合のシミュレーションをおこないます。

柱頭・柱脚部分について、梁・土台への接続方法は、伝統的な木造建築の技術である、「差し込み栓打ち」を採用しています。

上の動画の建物モデルに、建築基準法(告示1460号)で本来求められる柱頭・柱脚の引抜(金物)強さは、10段階(「1」が最も弱く、「10」が最も強い)の、「7」(または「3」)です。対して「差し込み栓打ち」は、「2」の強さしかありません。

それでは、揺らしてみます。

今回も、Y方向の変形が目についたものの、柱は柱頭・柱脚ともに梁・土台から外れることなく、倒壊を防ぐことができました。

2つの事例が倒壊を防いだメカニズム、耐震改修に関する指針、そして「制震」の考えを取り入れた3つ目の事例のご紹介については、長くなったので次回の「延長後半」までお待ちください。

次回は、12月13日(金)の更新予定です。