給排水設備工事(Mマンションリノベーション)

上の写真は、大人が童心に帰ってクマのプーさんになりきってみたところ、ではなくて、給排水設備業者さんが集合住宅の主管(各戸を各階縦方向に貫く管)と分岐管(主管の給排水を各戸へ繋ぐ管)の接続部を確認している様子です。現在、Mマンションリノベーションの、5期工事が進行中です。

今回は、これまでの1~4期に比べると平面(間取り)が若干異なります。

具体的に言えば、室内の水まわり各室(厨房、洗面洗濯、浴室など)が、配管計画上、最短距離をとりづらい位置関係となっていて、加えて、新設する給水・給湯管を現在の標準仕様である「さや管ヘッダー工法」とするために、どうしても室内を巡るそれぞれの配管の総長さが、これまで(1~4期)に比べ、長くなってしまいます(念のために申し添えますが、そのことで使用上・機能上の問題はありません)。

建物の構造上、床下高さ(深さ)があまりなく、加えて「床を支える柱状の部材」である床束(ゆか – つか)の間隔を広く取れない、配管スペースに余裕がない状況での「いつもより管多め」となる今回の配管工事では、その準備工程でおこなう「(床当該部の施工図をたたき台にした)床束の配置と配管ルートの擦り合わせ」を、これまで以上に綿密におこなってから作業に取り掛かってもらいました。

また、給水・給湯ヘッダーは、その上にくる床下点検口の、「歩行者の足に触れにくい、人通りの少ない場所に設置する」原則を踏まえて、厨房の奥に計画しています。

点検口と言えば今回は、排水管の距離も長くなるため、メンテナンス用の点検口(上の写真の、右下に見える「グレーの丸」)を設けています。

(山陰の)気象条件に沿った家づくり 後編

前回のブログ(前編)のように、気象庁の、国内主要都市の降水量データを閲覧して比較したところ、どうやら山陰地方は「弁当忘れても傘忘れるな」の言葉の通り、雨がよく降る地域であると言えそうで、日本海に面する北陸・東北地方についても、ほぼ山陰と同じくらいの雨が降るようです。

折角なのでもう少し深堀りしてみようと、国内で「雨がかなり降る」と言われる尾鷲市(三重県)、新宮市(和歌山県)、室戸市(高知県)についても同様に、2000年から2022年までのそれぞれの年の年間降水量を拾い出し、表計算ソフトに入れて平均値を出してみました。今回の後編では、まずはその値をご紹介します。

尾鷲観測所(尾鷲市)   4,017ミリ(境観測所より△2,119ミリ)
新宮観測所(新宮市)   3,453ミリ(  同   △1,555ミリ)
室戸岬観測所(室戸市) 2,542ミリ(  同   △ 644ミリ)

といったように、いずれの数値も境観測所(境港、山陰)を上回るもので、尾鷲に至ってはダブルスコアです。一旦は「雨降りの勝ち組」を誇ろうとしていた、境港市民である私の鼻っ柱は、この結果にものの見事にへし折られてしまいました。上には上がいるというのか、日本は広いです。そして長い。

この後、日本の広さと長さを思い知らされた一方で、これほどまでに雨が多い地域では、他とは異なる建物の特徴があるのではないかとも思い、上の各市の市街地をグーグルマップで散策してみました。そこでわかったのですが、室戸市では、一般住宅のビルトインガレージの割合が建物の新旧を問わず驚くほど多く、そしてそのほとんどがシャッター付きでした。おそらく、台風の針路に重なることが多いという理由も相まってのことでしょうが、気象条件に沿った建築のありようについて、あらためて実例から教えられたようでした。

・・・前置きが(とても)長くなってごめんなさい。ここからが今回の本題です。

このように、日本国内のさまざまな気象条件と、その条件に沿った住宅(建築物)のありように触れた経験は、翻って「比較的雨がよく降る」山陰での家づくりにおいて、どのような建築的工夫が効果的なのだろうかと、あらためて考えるきっかけになりました。

不相応なコスト増を招かずに実現可能なもの、とあらかじめ「縛り」を設けたうえで、考えてみたのですが、真っ先に頭に浮かんだのは、「雨(や雪)の日の買い出しの荷物を、濡れずに車から室内に持ち込むことができる、動線の整備」でした。

弊社ではこれまでの事例で、室内と室外の中間領域等として、リビングに繋がるウッドデッキ、あるいは玄関・勝手口に屋根を架ける手法をよく用いていますが、これをもう一歩進めた「濡れない動線の確保と、納める物の内容に応じた、動線上の収納計画」と、そして折角なのでさらにもうひと手間加えて、その各所の適切な断熱レベルの選択までを基本設計のなかに取り込むと、使い勝手とサービスヤードの質、そして本質的な省エネ(エネルギー消費量を減らすこと)にどれほどの影響をおよぼすのか、よい機会なので、いろいろ作って検討しています。

(山陰の)気象条件に沿った家づくり 前編

「弁当忘れても傘忘れるな」とは、気象に関しての、山陰地方に昔から伝わる言葉です。私がはじめて耳にしたのは祖父からで、今からおよそ半世紀前の、まだ幼い時分でした。

よく雨が降るからしっかり備えておこう、という心構えを伝えるこの言葉ですが、正直に告白すればそのころからずっと、日々暮らす境港を含めた山陰地方に対して、そう極端に「雨が多いなあ」といった実感を持てずにいました。たしかに梅雨時などは相応に降るものの、長じて移り住むこととなった、国内のいろいろな地域の空模様と比べても、殊更に雨が多いという印象がなかったのです。

「気象庁 過去の気象データ」のキーワードでネット検索をすると、1870年代から現在までの、国内各地域にある気象台(近年ではアメダスを含む)の観測データを閲覧することができます。これまで設計にとりかかる前に、その地域の積雪量や、主な風向きなどを調べておくことはあったのですが、降水量については「あの日に降った雨は何ミリだった?」と後追いで調べる程で、場所も山陰両県に限られました。今回、上に書いた長年の疑問を解消すべく、国内の主な降水量について調べてみたのですが、いろいろな発見がありました。

まずはじめに、弊社近くの境観測所(鳥取県境港市 東本町)のデータをご紹介します。

取り扱うデータは、ハンドリングしやすいように、2000年から2022年までの23年間の、その年に降った雨の量(=年間降水量)とし、いったん23年間の総量を出してから、1年あたりの平均値(総量÷23年)を算出しました。そうして出した境港市の、年間降水量の平均は、

1,898ミリメートル(= 約1.9メートル)

でした。

鳥取市や松江市、浜田市などの鳥取・島根県平野部のデータを見比べても、おおよそこの(境)くらいの値でしたから、この「1,898ミリメートル」を、山陰地方の雨降りの基準値とします。

次に、お隣岡山県の、岡山地方気象台(岡山市)のデータを同じように調べてみると、

年間降水量の平均 1,138ミリ(境より▲760ミリ)

と、さすが「晴れの国」と呼ばれるだけあって、雨の量も少ないようです。こうして比べると、やはり山陰は雨が多いのかなあとも思えるのですが、これだけでは比較対象が少なすぎです。そこで、朝のテレビニュースの天気予報に出てくる日本地図を頭に浮かべながら、そのほかの地域についても同様に調べました。すると、

福岡管区気象台(福岡市)   1,690(境より▲208)
広島地方気象台(広島市) 1,593(境より▲305)
大阪管区気象台(大阪市)   1,357(境より▲541)
名古屋地方気象台(名古屋市) 1,608(境より▲290)
東京管区気象台(千代田区)  1,650(境より▲248)
仙台管区気象台(仙台市) 1,262(境より▲636)
札幌管区気象台(札幌市)   1,155(境より▲743)

といった結果でした(単位はミリメートル)。

札幌の雨量が少ないのは、北海道には梅雨が存在しないことが影響しているようで、上記結果のほかに、北陸地方と東北地方の日本海側について、県庁所在地の気象台データを調べると、ほぼ境(=山陰)と同じくらいの降水量であることもわかりました。

このようにして見ると山陰地方は、「日本国内で、比較的雨がよく降る地域のひとつである」と言えそうです。

折角なのでさらに、雨の多い地域であると言われる尾鷲市(三重県)や新宮市(和歌山県)、室戸市(高知県)の年間降水量についても調べたのですが、長くなったので、この続きは後編に書きます(3月10日の更新予定です)。

10周年のご挨拶

毎年言っているような気がするのですが、年齢をかさねるほどに、時間の過ぎるのがどんどん速くなって、1年があっという間です。指折り数えてみると、建設業界の末席に腰掛けてから間もなく32年です。

そして、気づけば弊社も一昨日(18日)で業務開始から11年目に入りました。いま振り返っても、本当にあっという間でした。

この間、気候変動や自然災害、疫病、テロ・紛争、不安定な経済情勢など、日本国内に限らず全世界で、予想もつかない出来事が続いてきたのは周知のとおりですが、範囲を私の日々の生活圏に絞っても、ところどころでずいぶん様変わりしてもいます。

そうしたなかで、10年、ここまでにやることができたことの手応えと、ある意味ではここからがスタートなのだという実感と、ここから10年先に見える景色はどんなふうだろう?との憧憬が綯い交ぜになった、不思議な気持ちでいます。今日が明日に、今が未来に繋がっているという事実に身をもって頷くことができるようになれた、大切な学びの10年でもありました。

10年前、開業時のご挨拶として書いた「店主敬白」、そして5年前の「5周年のご挨拶」のなかで触れた「地に足の着いた家づくり」は、どうやら次のフェーズに入ったようです。

(「店主敬白」、「5周年のご挨拶」は こちら の、当記事の後に掲載しています。もしよろしければご笑覧ください)

かし保険や第三者機関の検査など、さまざまな機会で他社さんの現場へ伺った際に感じるのは、皆さんそれぞれに練度を高めて、掲げている「旗標」をさらによいもの、再現性の高いものにするべく試行錯誤を積み重ねているなあ、といったものです。

このような取り組みに負けないよう、私も日々精進せねばと思うのですが、こうした場で発生する「空気」は、よい意味での競争心を掻き立ててくれることに加えて、これからのあたらしい住宅、建築物をともにつくってゆくのだという気概を私にもたらしてもくれます。

これからも、おそらく世の中(というか世界、でしょうか)は絶えず変わり続けて、私たちは予想のつかないさまざまな出来事に遭遇するのでしょう。ならば私はこれからも、その時にでき得る技術とアイディアを駆使した家づくり、建築物の構築に尽くします。そして、その技術とアイディアはそれ自体が「目的」ではない、人間として満たされてヒトの営みを守るために注意深く選ばれた「手段」であることを、ここにあらためて記します。

本日で10年と3日目の弊社ですが、これからも日々の研鑽を怠らずに、目の前のご計画、案件を更によいものにするために、クライアント様、職方の皆さん、関係者の方々と一緒に知恵を絞り汗を流すことを、こつこつ積み重ねてゆく所存です。

引き続き、変らぬ御愛顧の程、宜しくお願い申し上げます。

2023年 1月20日
渡辺浩二

「持ち出し式」ロールスクリーン

上の写真は、高窓(正面に見える横長の窓)への、ロールスクリーン取り付け作業が完了した様子です。

竣工から数年経った先日、「夏場の午前中に差し込む陽射し<だけ>を遮る、何かよい方法はないだろうか?」とのクライアント様からのご要望にまず頭に浮かんだのは、必要に応じて開閉できて建物の内外観を大きく損ねない、ロールスクリーンの設置でした。が、続いてディテールについて考えを巡らせたところで、「ひと工夫」を加えなければならないこともみえてきました。

この高窓の高さは1階床から約3mです。直下の足元には、奥行き60センチの ローボードが造り付けられているのですが、仮に、そこに ロールスクリーンの標準的な仕様である「チェーン式」を取り付けると、開閉操作はローボードの前の1階床に立った状態で、つまり「窓から約2m下(床から約1m上)の、壁(窓)から60センチ離れた」位置でおこなうことになります。

付属するチェーンを引くことで軸部が回転してスクリーンを巻き取る、チェーン式のロールスクリーンは、ちょうど手動ホイストのように、ほぼ真下からの操作を想定したつくりになっています。逆に言えば今回のように、 ローボードの奥行き分だけ「真下ではなくなる」位置では、チェーンが本体に干渉して軸部がスムーズに回転しないなど、開閉に支障をきたす恐れがあるのですが、リスク回避のためにリモコン操作の電動式としても、今度はメンテナンス時の作業性の悪さや、電源部分と駆動部が内外観を損ねるなど、却ってデメリットを増やしてしまうことになります。

そうしたなかで新築時に内装工事を担当したY社Iさんに相談したところ、ちょうどこのような操作位置に対応した仕様のロールスクリーンがありますよと提案してもらったのが、今回採用した「チェーン持ち出し式」のロールスクリーンです(Iさんありがとう)。

上の写真のように、チェーン(写真中央やや右側)を引いて開閉操作をおこなうのは、一般的なチェーン式のロールスクリーンと変わらないのですが、この「持ち出し式」では、

スクリーンの真下ではない、後退した位置からチェーンを引くと、上の写真のように、軸部の先に取り付けられた滑車が「持ち出され」ながら回転して本体軸部に力を伝え、スクリーンを開閉します。実際に操作してみると滑車の効果なのか、硬さや重さなどを感じることなく、スムーズに開閉することができました。ちなみにこの「持ち出し式」の代表的な使用例は、コンビニエンスストア正面のガラス窓用(主に西日などの日除け用で、操作は本棚の奥行き分だけ後退した位置になる)なのだそうです。

同様の位置関係でロールスクリーンを検討中の方は、もしよければ参考になさってください。

※探したら、操作時の動画もみつかりました。