「個別で具体的な」耐震性の検証(中編)

少し間が空きましたので、まずは 前回 のお浚いから。

上の動画、「極めて稀な地震」の1.5倍の力に対して倒壊した、建物モデルに、

「窓の面積を小さくする」修正、つまり窓下の小壁を増やすことによって倒壊を防いだのが、上の動画の建物モデルです。

今回は、この建物モデルをベースにして、屋根などの「水平構面」と呼ばれる部位が、建物の耐震性にどのような影響を及ぼすのか、「見える化」をおこないます。

上の画像は先程のモデルから、「屋根面と火打梁 の構造強度に関するデータ(ひとつ前の動画で「薄いグレー」になっている、建物上部の水平面が「それ」です)」を、全て取っ払ったもの※です。

※但し、荷重はそのまま残してあり、1階床は存在しています。

屋根のない建築物、というのは現実ではあり得ませんが、この屋根(と火打)なしのモデルを先程の「極めて稀な地震の1.5倍」で揺らすと、どのような挙動、応答を示すでしょうか?

それでは早速、揺らしてみましょう。

建物モデルを真上から見下ろした時の「梁・桁などの横架材で囲まれた長方形」が水平構面と呼ばれる部位です(これに対して、耐力壁は「鉛直構面」と呼ばれます)。

この長方形に、地震(や台風)などの水平力が加わった際、通常は、「長方形から平行四辺形へ」変形しないよう、屋根面や火打梁などが抵抗するのですが、これらの要素を取っ払った、「ほぼノーガード、無抵抗」のこのモデルでは、水平構面の変形が増した分だけ更に、柱や壁などの鉛直構面の変形量が増して、やがて建物上部の重さを支えきれない程の変形量(傾斜角)になり、倒壊してしまいました。

追記:
建物倒壊のメカニズムについて、もう少し詳しい解説をお求めの方には、併せて こちら をご覧ください。

前回 の後半部分で取り上げた、「①耐力壁の配置バランスが崩れることで、②(鉛直構面の)変形が増して、③建物上部の重さを支えきれなくなり、④倒壊」したモデルに、「壁の量(窓下の小壁)を増やす」修正をおこなって、「倒壊しない構造強度」を得ることができましたが、

今回もその手法に倣ってみます。

具体的に言うと、上の画像のように、外壁両側面と正面窓下の小壁を増やし、加えて正面窓下の小壁を補強(幅1.82m高0.4mの構造用合板を1枚、増し貼り)してから再度、「極稀1.5倍」で揺らしてみました。すると、

(倒壊したケースと比較すると)ちょうど真逆のメカニズムですが、壁(鉛直構面)の変形量が減少したことによって、水平構面の変形も抑えられて、今度は倒壊には至りませんでした。

繰り返しになりますが、「屋根のない建築物」というものは、現実の世界では(建築基準法上も)存在しません。

ですが、今回の一連の実験を通して「見えた」こと、

つまり、「水平構面の強さが構造強度に及ぼす影響や、水平構面と鉛直構面(耐力壁)の、構造強度上の関係性と相互作用が把握できていること」は、中低層建築物の、特に吹抜けのある計画案を検討する際には、非常に重要な(というか必須の)知見であると感じています。

次回、柱や梁などのそれぞれの接合部の「強さ」と耐震性の関係性について、例によって個別のモデルを具体的な地震波で揺らすことで「見える化」をおこないます。

「個別で具体的な」耐震性の検証(前編)

前回、「極めて稀な地震」の1.5倍の力に対して、倒壊したこのモデルの

窓(奥側と両側面)の面積を減らし、窓下の小壁(こかべ)が増えた状態に修正して、再度同じ地震波でのシミュレーションをおこなったところ、倒壊を防ぐことができました。

このことから、木造軸組工法の耐震性能の向上には「(耐力)壁の量が大きく関与している」と言えそうです。では、壁量を一定以上確保すればそれで必要充分、なのでしょうか?

今回は、建物の耐震性と「壁」の関係について、もう一段階掘り下げた検証をおこなってみます(追記1:「個別で具体的な」耐震性の検証は、前編、中編、後編と3回に分けてお送りします)。

先程の、倒壊を防いだモデルを上の画像のように、壁の量は等しいまま、正面左側窓の位置を変更して、同じ「極稀地震の1.5倍」で揺らしてみます。すると、

倒壊してしまいました。そこで今度は、

窓面積をさらに小さくして窓下の壁量を増やしてから、再度「極稀1.5倍」で揺らしてみます。すると、

倒壊を防ぐことができました。

ここまで一連の「壁量増加→倒壊を防ぐ→壁バランスがズレる→倒壊→さらに壁量増加→倒壊を防ぐ・・」といった、対策と結果の繰り返しから見えたことについて以下、今回のまとめとして記します。

柱・梁・土台に囲まれた耐力壁と、窓上・窓下などの小壁を併せた「壁の総量」は、その建物の耐震性向上に大きく関与しています。

壁の量と、壁のバランス・釣り合いは、例えば、壁バランスの不均衡を、壁量を増やすことで補ったり、逆に、バランスの良い壁の配置のおかげで、必要とされる、相対的な壁量を減らすことができるなど、お互いが補完しあう関係にあります。

また、今回のモデル作成とシミュレーションを通して実感したことを一言添えると、壁量と壁バランスの「どちらかを優先しなければいけない」場合は、まずは壁量の確保を優先しておくことで、それ以降の作業をスムーズに運ぶことができるようです。

そして前回、前々回からの繰り返しになりますが、初期段階の平面・断面計画の「匙加減」は、建物の耐震性能を考えるうえで、とても重要です。

次回の「中編」では、屋根(天井)面、いわゆる「水平構面」の強さに応じて、建物の耐震性能がどのように変化してゆくのか、(具体的なモデルを具体的な地震波で揺らして)検証します。

追記2:
ここで「極めて稀な地震」「稀な地震」について、お浚いと補足説明をさせてください。

「極めて稀な地震」とは、建築基準法等で定められた、「数百年に一度程度発生する」地震の力で、「大地震」とも呼ばれます。具体的には、建物重量の100%の水平力(=建物を、縦方向に90度回転させた状態を保ったときに、建物に加わる重力)です。震度6強、地動加速度300~400gal程度が、おおよその目安とされています。この地震の力によって「倒壊しない」性能が、建築基準法により定められた、2段階の基準のうちの「2段回目」の性能(建物重量の100%の水平力で倒壊しない)です。

「稀な地震」とは、「数十年に一度程度発生する」建物重量の20%の水平力で、震度5強、地動加速度80~100gal程度が、おおよその目安です。この地震の力によって「損傷しない」性能が、建築基準法により定められた、2段階の基準のうちの「1段回目」の性能(建物重量の20%の水平力で損傷しない)です。

住宅の耐震性能を測る「モノサシ」

住宅に求められる耐震性能の基準について、現在の法令・基準をお浚いします(追記:長くなったので、今回一緒に予定していた「個別で具体的な内容」は、次回にあらためます)。

「住宅の品質確保の促進等に関する法律」(第3条と、告示第1346号の「日本住宅性能表示制度基準」)において、住宅に求められる耐震性能は、

極めて稀に、数百年に一度程度発生する地震による力に対して『倒壊、崩壊しない』」且つ「稀に、数十年に一度程度発生する地震による力に対して『損傷を生じない』」住宅は「耐震等級1」(建築基準法同等)で、

上記地震力の1.25倍に対して「倒壊、崩壊しない(損傷を生じない)」ものは「耐震等級2」、

同様に1.5倍、に対しては「耐震等級3

といったように、3段階に分けて定められています。

具体例として以下、「建物(の構造モデル)を wallstat で実際に揺らしてみた動画」をご覧ください。


この建物の挙動(応答)が、「極めて稀に発生する地震」の力に対して「倒壊、崩壊しない」一例です。

次に、同じ建物を「極めて稀に発生する地震の1.5倍の力で揺らしてみます。すると、

倒壊してしまいました。

では、この建物の窓の面積を小さくして(つまり、壁を増やして)から、もう一度「『極めて稀に発生する地震の1.5倍」で揺らしてみると、

かなり揺れましたが、倒壊には至りませんでした。

最後に、前回ブログの建物を同様に、「『極めて稀の1.5倍」で揺らします。

これらの「見える化」を通してわかった、耐震性能を考えるうえでの個別で具体的な内容については、次回のブログにてあらためます。

パソコンでできる「振動台実験」

前回に引き続いて、今回は wallstat を用いた耐震シミュレーション、「パソコン上の振動台実験」の様子をご紹介します。

モデル建物は、一年ほど前に当ブログでご紹介した計画案「山陰の気象条件に沿った住宅」です。壁の位置など、平面計画そのものには変わりはないのですが、条件がより「厳しく」なるように、小屋裏の「2/3をロフト、残りの1/3は勾配天井(吹抜)」とした、断面の変更を加えています。上の写真の建物正面が南側、の想定です。

模型を手に取って、いつもの手順で構造図を起こし、その構造図を wallstat でトレースして、実際に揺らしてみたのが下の動画です。入力地震波は1995年の阪神淡路大震災、神戸海洋気象台(神戸市中央区)で計測されたものを用いました。

次は、東側から見た、

建物の挙動(応答)です。

実験結果を数値から振り返ります。

今回の建物の最大変形量は、X(東西)方向が16.1mm、Y(南北)方向が24.8mmでした。

上の動画で、色が「グレーから、黄色」に変わった、開口を通して奥のほうに見える壁は、その壁が「建築基準法等により2段階に定められている、変形量の規定値(今回のケースでは1段階目が22.5mm、2段階目が90mm)の1段階目を上回った」つまり、最も動いた(24.8mm)部分であることを示しています。

実験結果の「全体から見た位置づけ」と併せた、個別で具体的な内容については、次のブログであらためて述べますが、「必要な量を満たし、かつバランスの良い耐力壁の配置」、言い換えれば「初期段階の平面計画」がいかに重要であるか、といった基本事項について、今回強く再認識することとなりました。