(山陰の)気象条件に沿った家づくり 後編

前回のブログ(前編)のように、気象庁の、国内主要都市の降水量データを閲覧して比較したところ、どうやら山陰地方は「弁当忘れても傘忘れるな」の言葉の通り、雨がよく降る地域であると言えそうで、日本海に面する北陸・東北地方についても、ほぼ山陰と同じくらいの雨が降るようです。

折角なのでもう少し深堀りしてみようと、国内で「雨がかなり降る」と言われる尾鷲市(三重県)、新宮市(和歌山県)、室戸市(高知県)についても同様に、2000年から2022年までのそれぞれの年の年間降水量を拾い出し、表計算ソフトに入れて平均値を出してみました。今回の後編では、まずはその値をご紹介します。

尾鷲観測所(尾鷲市)   4,017ミリ(境観測所より△2,119ミリ)
新宮観測所(新宮市)   3,453ミリ(  同   △1,555ミリ)
室戸岬観測所(室戸市) 2,542ミリ(  同   △ 644ミリ)

といったように、いずれの数値も境観測所(境港、山陰)を上回るもので、尾鷲に至ってはダブルスコアです。一旦は「雨降りの勝ち組」を誇ろうとしていた、境港市民である私の鼻っ柱は、この結果にものの見事にへし折られてしまいました。上には上がいるというのか、日本は広いです。そして長い。

この後、日本の広さと長さを思い知らされた一方で、これほどまでに雨が多い地域では、他とは異なる建物の特徴があるのではないかとも思い、上の各市の市街地をグーグルマップで散策してみました。そこでわかったのですが、室戸市では、一般住宅のビルトインガレージの割合が建物の新旧を問わず驚くほど多く、そしてそのほとんどがシャッター付きでした。おそらく、台風の針路に重なることが多いという理由も相まってのことでしょうが、気象条件に沿った建築のありようについて、あらためて実例から教えられたようでした。

・・・前置きが(とても)長くなってごめんなさい。ここからが今回の本題です。

このように、日本国内のさまざまな気象条件と、その条件に沿った住宅(建築物)のありように触れた経験は、翻って「比較的雨がよく降る」山陰での家づくりにおいて、どのような建築的工夫が効果的なのだろうかと、あらためて考えるきっかけになりました。

不相応なコスト増を招かずに実現可能なもの、とあらかじめ「縛り」を設けたうえで、考えてみたのですが、真っ先に頭に浮かんだのは、「雨(や雪)の日の買い出しの荷物を、濡れずに車から室内に持ち込むことができる、動線の整備」でした。

弊社ではこれまでの事例で、室内と室外の中間領域等として、リビングに繋がるウッドデッキ、あるいは玄関・勝手口に屋根を架ける手法をよく用いていますが、これをもう一歩進めた「濡れない動線の確保と、納める物の内容に応じた、動線上の収納計画」と、そして折角なのでさらにもうひと手間加えて、その各所の適切な断熱レベルの選択までを基本設計のなかに取り込むと、使い勝手とサービスヤードの質、そして本質的な省エネ(エネルギー消費量を減らすこと)にどれほどの影響をおよぼすのか、よい機会なので、いろいろ作って検討しています。