残暑お見舞い申し上げます。

お盆を過ぎて、朝夕にいくらか秋の成分も混ざってきましたが、今日も蒸し暑いですね。

およそ10年前に設計と工事マネジメントをおこなわせていただいたお宅に先日別件で伺った折、そろそろ10年目なのでと、点検を兼ねて久しぶりに床下に潜りました。

ひととおり検査して配管と構造材の劣化も見当たらずまずはひと安心、写真で見るとヒノキがつやのあるいい色になっているのがよくわかります(潜っているときには気づきませんでした)。

地中の温度は一年を通じて安定しているといいますが、床下のなかもひんやりと涼しくて、野菜などの貯蔵庫に使われることにもあらためての納得でした。

「私家版 家づくりガイド」その10(コストパフォーマンス)

コストパフォーマンスを「家づくりの費用対効果」と意訳して、

・コスト(費用=支払うもの)と
・パフォーマンス(効果=仕上がり)について、

拾い出して分類してみました。

(コスト)
・時間
・お金
・アイディア

(パフォーマンス)
・気持ちのよさ
・安心感
・使いやすさ
・完成までの過程の充実度

と、いったところでしょうか。

費用<効果

と感じたら、その家の「コストパフォーマンスは高い」と言われ、

効果<費用

ならば、「コストパフォーマンスは低い」と評価されます。

このように整理すると見える、住宅のコストとパフォーマンスには、2つの大きな特徴があります。

まずひとつめ、
コストは必ずパフォーマンスより先に発生します。

家づくりではコスト(時間、お金、アイディア・・・)は常に先払いです。既製服のように試着はできませんし、昼定食のように、いろいろ試してみた後でお気に入りを見つけることも原則叶いません。

ふたつめは、
パフォーマンス(仕上がり)は、実際に出来上がってみないと実感を伴いません。

図面や模型だけでイメージしきれるものではないですが、かといってそのために実際に家三軒建てるわけにもいかないですし・・・。

けれども、実感そのものにはたどり着けないけれど、限りなく近づく方法はあります。それは何かというと、完成に先んじて「完成した様子を想像することを繰り返すこと」です。

もうすこし具体的に言えば、図面や模型、場合によっては現寸見本を用いて複眼的な検討を繰り返せば繰り返すほど、その「想像」は完成時の実感に近づいてゆきます。その繰り返しを納得ゆくまで続けると、肉薄に至ります。

その肉薄は、舞台前稽古の充実と上演内容の関係と同じように、現場のパフォーマンスを押し上げて、そして建設費用を押し下げます。練習は嘘をつきません。

建築関係のみに限らず、ここのところ巷に流れる口当たりのよい情報や、現状を都合よく受け入れてくれそうな仕組みを目にしたり耳にしたりすると、それらの行間からはこんな言葉が漏れ聞こえてきます。

「オマエはものを考えなくてよい、つくらなくてもよい、ただカネだけ払えばよい。」

最近特にそんな感じです。便利な手軽さの先にあるものと長いスパンの信頼との結びつきが、正直なところ私にはイメージできません。

家づくりにおいて、完成してから50年先を「想像」して、そこだけの最適解を考え工夫することは、その計画にかかわる当事者にしか実感できないもので、その人、人たちにしか感じることができない事柄には、たぶん近道はありません。

              *    *

長きにわたり書いた「私家版家づくりガイド」は、これにて終了です。快適な家づくりの実現のための「魔法の杖」がもし存在するのであれば、それは先人からの知恵のような「案外普通のことがら」の積み重ねと組み合わせなのだろうとの考えは、ひととおり書き終えて更に強くなりました。

以上、参考となれば幸いに存じます。最後までお読みくださってありがとうございました。

「私家版 家づくりガイド」その9(スマートハウス)

Nikkei4946.com によると、

スマートハウスとは、一般には、「発電設備を備え、生活に必要なエネルギーをできるだけ住まいの中で自給自足し、無駄なく使うしくみを取り入れた次世代型の省エネ住宅のことで、基本的な構成要素は、

①太陽光発電システムや燃料電池といった、電気を自前でつくりだす発電設備、
②余剰電力や電力需要が少ない夜間に電気を貯めて利用する蓄電池、
③これらをさまざまな家電製品とつないで一元管理する家庭内エネルギー管理システム、

の3つで、

①と②はそれほど目新しいものではなく、これまでも省エネ住宅という括りで登場していたが、
③のエネルギー管理システムが加わることによって、スマートさ(賢さ)というあたらしい付加価値が上乗せされた。」

との解説でした。なるほど。

そのなかの③、「エネルギー管理システム」のおもな機能には、

・現在のエネルギー消費の度合いが一目でわかるディスプレイと、
・機器使用中の「荒い」操作をあらかじめ見越して開度をセーブできる設定、
・状況に応じて通電、売電、発電、蓄電それぞれの入出力の調整

があって、なんだかECOモードボタンのついたハイブリッドカーのインパネみたいな印象です。

このシステムは「家庭のエネルギーを管理する仕組み」の英単語の頭文字をとってHEMS(ヘムス)と呼ばれて、家電・住宅設備機器メーカー各社から製品が出されています。電気の使用量制御に特化したものから電気・ガス・水道の使用量や室温管理に至るまでを計測して制御できるものまで、その範囲はさまざまです。

理論値では相応の効果が期待できて、設置に対しての国からの助成により、設置費用もかなり抑えられるようです。

HEMS,なるほどこれはよいものだということは分かります。

ただここで見過ごしてはいけないのは、これらの仕組みにできることはあくまでも「現状」のエネルギー消費の効率化だけであって、絶対量の削減とは意味合いがすこし違う、ということです。

つまり本来ならば、まずはエネルギー消費量を必要最小限に納まるよう計画しておいて、そのマイナスアルファ、削減をアシストするかたちでのHEMS導入と、いうのがスジです。HEMSはすぐれた制御システムではあるけれど、それですべてが「チャラ」になるわけではありません。

たとえば、

仮にHEMSの制御によってエネルギー消費量が現状よりも10%削減されるとします。

ある住宅Aの総エネルギー消費量を「100」とした場合、

HEMS導入後の住宅A´のエネルギー消費量は、
「100」*0.9=90で「90」になります。

同じように住宅Bの総エネ消費量が「80」、住宅Cで」では「120」だったとすると、

住宅B´:「 80」*0.9=「 72」
住宅C´:「120」*0.9=「108」

となります。

ABC各住宅のエネルギー消費量を比較した場合、

住宅A´:「 90」
住宅B´:「 72」
住宅C´:「108」

となって、

結果的にHEMS導入の住宅C´(108)は、HEMSを導入をしていない住宅A(100)、B(80)に比べて、より多くのエネルギーを消費することになります。

(財)日本経済エネルギー研究所の資料によると、

住宅における用途別のエネルギー消費の割合は、

・照明、動力、厨房 30%
・給湯       35%
・空調       35%

となっていて、それぞれを丁寧に見てゆくと、計画・設計段階でできる省エネ対策は、実はけっこうあります。

窓の位置を見直して採光条件を改善すると昼間の照明エネルギーは必要なくなるし(※)、日射遮蔽と断熱・通風を上手に計画できれば夏場はエアコンなしも可能です(参考:夏涼しく冬暖かい家②③)。

エコキュートやECOジョーズなどの高効率給湯器を選んだり、断熱を強化したりするのは、最近の動向からみるとむしろスタンダードなのかもしれませんが、改修工事ではその効果をおおいに実感していただけます。

※ちなみに弊社事務所は、窓からの光で十分明るいので日中はほとんど電灯なしですごせます。

HEMSが高効率をもたらす要因を整理すると、

・情報の一元管理と整理分析
・整理分析した情報のデータベースに基づいた運用
・それら全業務の見える化

と、まとめることができそうです。そしてこのことは、

「複数の要因をそれぞれ見極めて、全体が最適になるようにバランス取りをおこなう」

と言い換えることもできます。オーケストラにコンダクターが必要であるように、高効率のエネルギー管理にも、専任のマネジャーが必要だということでしょうか。あなたの家づくりには、全体を見渡してタクトを振れる「プロ」はいますか?

次回はシリーズ最終回、「コストパフォーマンス」についてです。

「私家版 家づくりガイド」その8(防犯)

家に求められる機能のひとつに、雨や風や雷などの自然の環境から身をまもる、たとえるならシェルターのような機能があります。

はるか遠い昔に私たちの祖先は高い木の上での暮らしから、環境の変化で森が減ってやむなく地上に降りて生活をはじめたのだそうで、そのころ住まいのまわりにはトラやライオンやオオカミなどの肉食獣がうろついて、絶えず身の危険にさらされていたようです。

現在では、家のまわりを肉食獣がうろつくことはありませんし、私が幼い頃には、田舎だったからかもしれませんが戸締りについての意識はあまりなかったようです。

が、現在では防犯の意識はもはや必須で、弊社のある境港、そして鳥取県は都会に比べればのんびりしたイメージで、窃盗などにも縁がなさそうですが、いやいや、しらべてみるとそうでもありませんでした。

鳥取県警さんの資料によると、

鳥取県内の平成22年の住宅対象の侵入窃盗(空き巣、忍び込み、居空き)は253件でした。侵入口の種類は玄関・窓・勝手口・ベランダなどさまざまですが、侵入方法についてはその8割以上が 「施錠されていないところからの侵入」 となっています。うーむ。

建築基準法には防犯に関して、特に規定はありませんが日本住宅性能表示基準には防犯性能の項目が定められています。開口部の大きさと位置によって侵入可能な開口部を選定して、ガラスや錠や面格子などの対策を講じていることが性能表示の基準となっています。

しかし、住宅への侵入の8割以上が施錠されていない窓やドアなどからならば、施錠されたかどうかをモニターなどでチェックできる仕組みがあればいいのにと思って調べてみたら、民間セキュリティ会社さんが今度営業にいらっしゃるようなので、住宅へのセキュリティサービスにそのようなシステムがないのか尋ねてみます。

ゆくゆくは携帯電話機からの操作で、その家の戸締りのすべてが可能になったりするのかもしれません。過剰な動力や機械や物性に頼る家づくりの考え方は、正直なところあまり好きではありませんが、ハンディキャップやヒューマンエラーを補ってくれるような技術の進歩には諸手をあげて大賛成です。

次回は「スマートハウス」についてです。

「私家版 家づくりガイド」その7(バリアフリー)

国民生活センターの資料によると、家のなかでおこる事故の主なものには、

・階段からの転落
・室内の床段差による転倒
・玄関の段差による転倒
・浴室での転倒、溺水

などがあるそうです。

バリアフリーはこれらの事故を未然に防ぐための対策であると捉えると、本当に解消しなければならないバリア(障壁)とは、単純に物理的な段差だけでは済まされないのだなあとあらためて思います。

日本住宅性能表示基準のなかの「バリアフリー」の項目では、

・段差の解消
・階段の寸法、仕様の提示
・手摺の設置
・通路、開口部の幅、トイレや浴室、寝室の最低寸法の提示

の各項目により、5等級に分かれた仕様が定められています。

この仕様が住宅金融支援機構のフラット35の融資基準や各自治体の改修工事などの助成金支給の基準にもなっています。

室内での転倒防止には、和室部分は摺り板を設けるか段差のない設計として、玄関や階段など、やむを得ない部分には手摺などを設けましょう。

階段での事故件数をこまかく調べると、下りの事故件数は上りの際の4倍になっています。階段の手摺を片面だけに取り付ける場合は、下りの際の利き手側に取り付けましょう。

次に触れる項目は特に、どこそこで定められた仕様、というものではありませんが、住宅の安全性についての重要なデータと提言です。それは医療分野からの、いわゆる「ヒートショック」についてのものです。

「浴室内での溺水」のうち、浴槽内への転落事故を除くと、その原因は虚血性心疾患による入浴中のもので、国立保健医療科学院の2001年の調査資料によると、亡くなられた方の数は、年間で推計1万4千人となっています。

冬季に居間~脱衣室~浴室(または寝室~トイレ)など、一般的には気温差が大きいとされる部分では、入浴やトイレの際に身体が冷やされ(入浴時には再度あたためられ)、血圧の急激な上昇と低下を招き、血圧の急激な上昇は心筋梗塞や脳梗塞を引き起こし、血圧の低下は意識障害を招くなど、ともに重大な事故につながる原因となるようです。

ヒートショックに対して、建築分野からおこなえる対策とは、各室の室温差を極力小さくすること、すなわち室内温熱環境のバリアフリー化がその主なものです。

以前のブログでも触れましたが、温熱環境のバリアフリー化対策には主にふたつの考え方があって、全館暖房と室内各所への暖房設備の個別配置がありますが、その大前提はしっかりとした気密断熱です。

家の中の障壁(バリア)は、できるかぎり取り除いて、しかもデザイン的にも自然で取ってつけたようにはならないない、機能と意匠が共存するものが理想です。

そういった取り除くべきバリアとは別に、住宅にはたとえば屋根や外壁など、暑さ寒さから人を護るために「必要なバリア」も存在します。

次回は、そうした護るためのバリアのひとつである、「防犯性能」について書きます。