家づくりのあたらしい動き(逆算プランニングその5)

「家づくりのあたらしい動き」と題して、総合建設業者さん、工務店さんが取り組まれている原価公開の動きから見える、これからの家づくりの方向性について私見を述べます。

原価公開とはどのような取り組みなのかというと、これまで総合建設業者さん、工務店さんが「家づくりにかかる費用」としてひと括りにしていた、

・各専門工事業者の工事費(原価)、
・現場管理費、
・自社経費

をそれぞれに分割して公開し、重層構造をなくして情報とお金の流れのロス、滞りを取り去りましょう、といった趣旨のようです。

ホームページや情報誌、書籍からの情報に留まって、関係者の方に直接お話を伺ったことはまだないのですが、基本的な考え方は、私たちがおこなっている分離発注方式と同じだなあというのが、率直な感想です。

ネット検索で「家づくり 原価公開」と入力すると、たくさんの記事が出ます。今あらためてgoogleで検索したら11万件ヒットしました。この取り組みについて知らなかった訳ではないのですが、いまから10年ほど前は、全国規模で見ても目立った存在といえば岐阜県の㈱希望社さん一社くらいだったのですが、いまや11万件のヒットです。今回調べてみて、どれほどの社数、団体数で実践されているのか、その実数が把握できないほどの規模であることだけは把握できました。

パソコン一台、否、最近ではスマートフォン一個あれば、一般的な住宅建設に必要な粗利益率の情報が入手できる状況で、その情報(粗利益率)と見積明細書に載っている諸経費とを比べて、その違いをフィクションと称することにも、100%ではないにせよ頷けます。

しかし、もともとが家づくりを私たち「普通の人」にも可能とするためにうまれた一括請負方式の、良かれとおこなわれていた代行サービスのいわば大人の暗黙の了解の部分、つまり、これまで「言わぬが花」とされていた部分を明るみに出すということは、見方を変えれば見なくてもよかったことがらを直視せざるを得ないともいえるわけで、よい・悪いの単純な二元論で結論が出るものでもないだろうとも思います。

けれどその時代の「標準」の推移のなかの、たとえば医療における告知・インフォームドコンセントなどにみられるような閉じられた専門技術職からの情報公開の流れは、今後促進されることはあってもその逆はないだろうとも思います。単純な比較は危険ですが、アメリカの家づくりでは工事原価+経費の金額提示で、異なった数種類の経費の額によって受けられるサービスも違う、といったやりかたが大多数のようです。

そうした「現在」の世の中において、家という商品(この視点はとても大切です)を手に入れるプロセスのなかで、日常生活とかけ離れた金額の動きや複雑なシステムを直視しなければならない負担は、今やそれを隠すために覆っていた外皮一層ぶんのコストよりもその価値が軽くなってしまった、それ故の原価公開の流れではないのかとも思います。

繰り返しますが、単純な比較は恣意的な誘導を孕みます。

しかし、そのことに充分注意を払って慎重に考えを進めても、これからの家づくりがこれまでより内向きに閉じるものではなく、外に向かって開かれたものになるだろうという予想は、私のなかではどうしても覆らないです。この先の10年、どれほどの変化が、どれほどの速度で進んでゆくのでしょうか。

次回は今シリーズ最終回、これまでお話したことを総合して、コストから逆算したプランニングについてご説明します。

建設業界の商習慣の歴史と現状2(逆算プランニングその4.1)

戦前から現在までの、

・普請
・一括請負方式
・分離発注方式

これら3つの特徴を長所短所に分けて書きます。
その前にまず、3つに共通する事柄をおさえておきます。

「物理的な家づくり」自体は、

・普請であれ、
・一括請負であれ、
・分離発注であれ、
どれも同じです。違いはありません。

建築の法則に基づいた設計図書が現場の作法に則り、専門工事業者が腕を奮い工事管理者が現場をコーディネートすることで家は完成します。材料と人の手と言葉を用いて、皆で協同して編み上げてゆくものが家であり建築物です。

これから述べるのは、家をつくること自身の外側、いわば「家づくりの仕組みの仕組み」についての違い、特徴です。

【1:戦前からの普請について】
建築主(旦那)が準備した資金で材料を買い付け、出来高報酬制で各専門工事業者を雇い入れ、設計と現場管理を大工棟梁に委任するスタイルです。直接買い付けたり雇ったりするところから直営方式ともよばれ、現在もこのやりかたは大工さんの直営工事として続いているようです。

長所は、
支払いが直接であるために各専門工事業者の顔が見える。専門工事業者(大工棟梁)が設計者と現場管理者を兼ねるので、情報伝達のロスがなく作業効率がよいことが挙げられます。

短所は、
大工工事以外の仕様選定は、原則建築主と各専門工事業者との個別・直接のやりとりとなるため、全体のデザイン・バランス取りと工事費の管理は建築主の力量に任せられます。このことによりプロの建築主、つまり「旦那」であることを求められる傾向が強いといわれています。

【2:一括請負について】
ひと言で言えば、「旦那」でなくとも建築主になれることを目指したシステムです。総合建設業者が材料、各専門工事業者の手配と支払い、現場の品質管理、工程調整をおこない、それら全体の費用はあらかじめ結ばれた(その家の完成についての)請負契約によって確定しています。

長所は、
あらかじめ請負契約書が交わされ工事費が確定していることにより、住宅ローンを組むことが可能です。家全体についてのコーディネートは総合建設業者に任せておけばよいので、建築主の負担は軽いです。

短所は、
実際の工事にあたる各専門工事業者は、元請けである総合建設業者を介さなければ建築主は関与できない「下請け工事業者」となってしまい「顔」が見えません。つまり、重層構造が情報伝達のロスやミスの可能性、こまかな変更や修正に対してのレスポンスや精度、そして複層ぶんのコストにおいて、「不利側」の結果を招く要因として潜在しています(改善の取り組みについては後述します)。

【3:分離発注方式について】
建築主が専門工事業者に工事費を直接支払うところは1の普請、直営工事と同じですが、2の一括請負同様に「旦那」であることは求められません。設計と現場での采配、工事費支払いの管理は建築設計事務所の建築士がおこないます。

建築士は建築主に対して建築の専門についてのアドバイスをおこない、設計積算、公的申請、見積集計、専門工事業者選定の助言、現場での工程管理、品質管理などのコーディネート・マネジメントの業務をおこないます。設計事務所への業務報酬と各専門工事業者への工事費とは、別個に契約書に基づいて支払われます。

長所と短所、
直営方式の短所である「建築主への負担」が軽減されますが、一括請負方式にくらべれば、負担は若干あります。一括請負方式の短所である「下請け重層構造」を解体して且つ、設計+現場管理=一人なので、情報伝達の効率、そして作業効率が高いです。

※直営方式(設計+現場管理+大工=一人なので)は、更に高効率です。

分離発注方式では、各専門工事業者と個別に請負契約を締結するので、その内容に基づいて住宅ローンを組むことができます。

まとめて比較すると、

1:直営方式(普請)は、業務効率は高いが建築主への負担が大きい
2:一括請負方式は、建築主への負担は軽減されるが、業務効率は低い
3:分離発注方式は、1と2の中間

といったように、どのシステムにも一長一短があります。そしてこの3つについて、「顕在する建築コストの量」をモノサシにしてそれぞれを計ると、

1:直営は、建築主への負担分がコスト減となる
2:一括は、軽減された建築主への負担の分だけ、つまり業務効率の低さがコスト増を生む
3:分離は、1と2の中間

であることが見えてきます。

次回「家づくりのあたらしい動き」と題して、最近目にする一括請負方式の原価公開について書きます。

建設業界の商習慣の歴史と現状1(逆算プランニングその4)

今回から2回に分けて、戦前から現在における家づくりの体制・システムの変遷について書きます。

ざっくりと言い換えるならば、家という商品(この側面を軽んじてはならないと思います)をどのような店構えでどんな包装紙で包むのか、その歴史と変遷についての話です。

戦前までは建築のことを普請(ふしん)と呼んでいました。本来この言葉は、家づくりのみならず、その地域の公共社会基盤を地域住民でつくり維持していく事を指したのだそうです。建築主は「旦那」と呼ばれ、出来高報酬制で各専門工事業者を雇い入れ、現場は大工棟梁の采配に任せるスタイルでした。

戦前の住宅着工件数は資料をさがしたけれど残念ながら見つからず、直近の1946(昭和21)年で約30万戸/年でした。当時は建築確認制度はまだなく、市街地建築物法にもとづく警察からの許可制だったようです。

現在の家づくりの主流は、発注者(建築主さん)から工事を一括に請け負い、完成・引渡しをするスタイルです。

一括請負者は、建築主さんから「家づくりに関する費用」の支払いを受けて、そのお金で材料と各専門工事業者の手配、現場の品質管理、工程調整に伴うコストと自社の運営費を賄います。このような仕事は総合建設業、または工務店ともよばれます。社内に設計事務所を構えて、自社設計をおこなうところも多いです。

家づくりにおいてこのやりかたが整ったのは、戦後まもなくの1950年(昭和25年)頃だといわれています。

サンフランシスコ講和条約締結を翌年に控え、ちょうどこの年に建築基準法、建築士法、住宅金融公庫法が制定されて、戦前の普請的な手法ではない、つまり「旦那」として工事に臨まないで注文住宅を建てたいという新しい顧客層の要望を満たすためのパッケージとして、棟梁をお抱えにしなくてもよく、あらかじめ総額が明示されて公庫融資が可能であり、ひとつの窓口にお金を支払えば家が完成する、あたらしいシステムである一括請負方式は誕生しました。

社会的・文化的貢献という側面と併せて考えるべきことがらなのでしょうが、ともすれば特定の階層による趣味、やや意地悪に言えば道楽の要素を否定できない「普請」を私たち一般人にも手の届くものとした一括請負方式の誕生は、当時からすれば革命的なシステム変更だったのではないかと想像します。

その後の住宅着工件数は、爆発的ともいえる右肩上がりの増加を続けてゆきます。そして、すべての都道府県において住宅数が世帯数を上回った23年後の1973(昭和48)年に190万戸/年にまで達し、ピークを迎えました。

分離発注方式は、いまから20年ほど前、1990年代の初めごろに本格的な普及がはじまったと言われています。

総合建設業者を介さず、建築主が直接に各専門工事業者と個別の請負契約を結び、

・設計積算、
・仕様と工事費の検討、
・見積集計、
・契約書式の整備、
・公的申請、
・工事マネジメント

を建築設計事務所の建築士がおこなうスタイルです。各専門工事業者への工事費、建築設計事務所への業務を個別に「分離して発注」することがその名称の由来です。

1973年(昭和48)年にピークに達した住宅着工件数は、以降はゆるやかに減少を続け、先ごろ発表された2013(平成25)年の統計は、98万戸/年でした。

次回、これらの3つの手法である、

・普請
・一括請負方式
・分離発注方式

それぞれの特徴を長所、短所に分けて紹介します。

家ができてゆくシステム-「お金の流れ編 2」-(逆算プランニングその3.1)

正確なコストを把握できないために生まれるロスを排除すること、つまり正確なコスト量を把握することが、コストダウンへの第一歩です。

「そりゃそうだろ。というかコストダウン以前の話だろ」なのですが、これをコツコツとやることが、コストダウンの第一歩です。

このロス排除の方法には、その他の方法もあって、前回お話した、

①正確なコスト(=施工表面積)を把握できるだけの質と量で設計図書を完成させ積算することを含めて私が知っているのは合計3つで、

②プラン自由度を制限して且つ、生産棟数を増やし、最小限のロスを数の論理で「吸収」する
③そもそもそのようなロスを認識しない、または「知らないふり」をする

といったふうに、検討に値するのは、①、②の2つです。

オーダーメイドの家づくりを考えれば①が理想ですが、納得のゆく範囲であれば、②の手法も合理的であると思います。

ともかく、③を上手に回避することでようやく、正確な数量を把握したうえでの「本来のコストダウン」に進むことができるのですが、つくり手の端くれとして、①、②での正当な、自由な競争を強く願っています。

おかげさまで現在の傾向は、人口の減少と不況による国内着工件数の減少、インターネットの普及による、個人が扱える情報量と質の向上、そして流れの双方向性などにより「密室」が消えて、そのぶん「ガチンコ」となる空気が年々強まっている手応えです。身が引き締まる思いですが、ありがたくも思っています。

次回は、家づくりの現場の、外側の仕組みについて書きます。

家ができてゆくシステム-「お金の流れ編1 」-(逆算プランニングその3)

家づくりの「現場」が成立するための必要十分な条件は、

・人(専門工事業者)
・人(現場管理者)
・材料

の3つが揃う事です。

今回はこの3つに配分されるお金(コスト)の割合について書きます。

それぞれに、どれほどのコストなのかを知ること、とは、

①専門工事業者の作業量
②現場管理者の作業量
③材料の量

が、その現場において、どれほど必要なのかを知ることです。

大掴みにいえば(システムキッチンやユニットバスなどの住設機器や仕上げの仕様と、施工難易度が一定であれば)、作業量、材料の量は、その現場の規模に比例します。

延べ床面積30坪の家と100坪の家では、100坪の家により多くの作業量と材料、つまり多くのコストがかかります(=お金が流れます)。では、規模、コスト=坪数、床面積なのでしょうか?

いわゆる坪単価(工事費÷延べ床面積)がいまも有効な目安であるのは、延べ床面積が、住宅の規模をある程度までは示せるからです。

が、「ある程度」以上になると、いろいろと不都合が生じています。なぜならば作業面は床だけではなく、その他屋根、軒裏、外壁、天井、室内壁の5つの面があって、これらの面積は建物の高さ、形状、各階の比率と所要室の数によって、その計画ごとに異なります。必要作業量と材料量、つまりその建物のコストから捉えた「規模」とは、これら6面の表面積の合計(=施工表面積)に一致します。

これは私見ですが、古来の日本建築には室内の壁がほとんどなく、間取りや階高も一定であったことから床面積の全表面積に対する割合がおおきくて、故に床面積がその「規模」をある精度で掴むための基準として機能し重宝され、その流れを汲んで今に至ったのが坪単価なのではないかと想像しています。

左官屋さんに外壁と室内壁に200㎡の漆喰を塗ってもらうと、200㎡相当の作業量、材料費、そして現場管理費が発生します。それは150㎡でも250㎡でもなく200㎡です。150㎡だと足りないし、250㎡ならば50㎡分がロス、無駄なコストです。

そのロスを防ぐためには数量を正確に計測できるだけの図面(設計)と図面から数量を正確に計る手間(積算)が必要で、経験からいえば、現場で発生するロスは、設計・積算のコストを上回ります。

これはコストダウン以前の問題とはいえ、「正確なコストを把握できないために生まれるロス」の芽を確実に摘んでおくことが、まず実践すべき、コストダウンの第一歩です。

次回、この「第一歩」について、異なるアプローチをご紹介します。