「私家版 家づくりガイド」その4(火災につよい家)

総務省消防庁の資料によると、2010(平成23)年の年間出火件数は50,006件で、1,766人の方が命を落とされています。

そのうち住宅の火災は14,271件で、建物火災の9割以上を占めています。最も多い出火原因は放火です。次がたばこの不始末、三番目がコンロとなっています。

1,070人の方が亡くなられて、その主な原因は、火災発見の遅れによるガス中毒と火傷です。亡くなられた6割強が65歳以上の方です。こうしたなかで、住宅にできることは何なのか、現在の法令等を整理しながらこの機会に、あらためて考えてみます。

法令などをみると、

都市計画法、建築基準法、消防法、日本住宅性能表示基準に、住宅の防災に関してそれぞれの規定と基準が定められていますが、それらは大掴みにいえば、

火災に対して、より注意をはらわなければならない地域の指定と、

建物を、

・燃えにくく、
・避難しやすく、
・早期の発見と通報ができて、
・消防活動の妨げとならないようにする

規定と基準です。

都市計画法には、

火災が起きたときに、その炎が燃え広がらないように、古くからの木造の建物が密集している地域や中心市街地などを 「火災に対して、より注意をはらわなければならない地域」 として指定するよう定められています(境港市ならば、境港駅から東に数キロ、米子市ならば米子駅より北に、灘町・角盤町にかけての地域が「準防火地域」として定められています)。この地域の建物はその他の地域に比べて、より高い防火性能を求められます。

建物についていえば、建築基準法には、

・建物自体の耐火性能、
・隣からの類焼防止と隣への延焼防止、
・火を使う部屋に使用する材料の制限、
・避難時の安全性確保

について、地域、用途、規模、構造のそれぞれに併せて基準が定められています。一般的な規模の住宅では、これらの基準はその一部の適用を受けるのみですが、適用外の法令でもたとえば避難規定(避難経路を炎で塞がれたときのために、別方向の避難路も設けるなど)など、住宅にも参考にできるものがあります。

消防法では、

火災発生を音でしらせる住宅用火災警報器(ホームセンターなどで売っている白い円盤状のものです)を新築の家、既に建っている家を問わず、すべての住宅への取り付けが義務化されています。

日本住宅性能表示基準ではこれらのほかに、火災警報器の設置数について、消防法を上回る基準(※)を設けて等級を定め、3階からの脱出対策についても、基準と等級が定められていています。
※消防法には台所への設置義務はありません

火災の歴史を経て整備された各種法令と基準は、先人の経験と防災への願いが詰まった、活かすべき財産です。それらを鑑みて、では自分に何ができるのだろうと考えたことを記して、この回のまとめにします。2つあります。

①「まずは法令を遵守すること」
なんだそんなの当たり前だろと言われそうですが、その通り当たり前のことです。けれど当たり前のことが当たり前にできていれば耐震偽装もメルトダウンも起こらなかったわけで、実地では、ここが大切なスタートラインなのだと思います。

②「複数の要素を単純なひとつのかたちとして練り上げること」
たとえば平面計画のときに、玄関~ホール~リビングへと繋がるメインの動線と、水周りから勝手口~サービスヤードに繋がるサブの動線を整理して分けることは、本来は使い勝手のためのものですが同時に避難経路を複数確保することにもなります。広めの収納スペースを設ければ余計な物が散らからずに済みますが、それが火元をあらかじめ取り去ることになったり避難経路を妨げない要因になるかもしれません。

そんなふうに、基本設計のなかで、ある課題と他の課題とが同時に解決できる道筋(というかアイディアというか)が現れて、それは設計があるレベルまで練りあがった指標のようなものだと理解しています。

狭小敷地での三階建て住宅の設計事例を振り返ってみても、例えば避難動線と玄関位置と駐車スペースが、並列した課題として同時に解けてゆくタイミングがあって、その道筋への共通のカギは何かと考えると、それはおそらく選択肢のうちで「よりシンプルに」なるような判断を積み重ねた成果なのだろうと思います。

次回は、「家づくりガイド その5」、シックハウスについてです。

「私家版 家づくりガイド」その3(長持ちする家)

家づくりにおけるアンケート調査で、関心の高いことがらの上位ふたつは、

①構造
②断熱

です。

安心して心地よくすごせることとは、その家に求められる基本であり、最低限クリアしなければならないハードルです。そしてそのハードルは、家が建っている間ずっと超え続けなければなりません。

今回は、そのハードル超えを担保するもの、家の耐久性について書きます。

まずは公による基準、仕様について触れておきます。

日本住宅性能表示基準には、

・耐久性と
・メンテナンスのしやすさ

について仕様が定められていて、等級分けされています。これらは長期優良住宅の認定基準のひとつです。

仕様についておおまかに言えば、3つに分かれていて、

①建物への水分(水蒸気)のコントロール
②点検口など、メンテナンスを見越した設計の具体的な指標、
③耐久性からみた樹種の分類、

です。

①では、腐朽やサビやカビやシロアリの発生を防ぐよう、水・湿気が過剰に流れたり、留まったりしない工法が定められています。

以前の ブログ で触れましたが、あたためられると上昇する空気の特性をいかした、外壁通気と小屋裏換気の工法は、結果的にに漏水防止と除湿の役割も果たしています。

②は、配管と構造体との関係や点検口設置の義務、点検スペースの寸法など、③には、湿度の多い地盤面付近に使う木材は、ヒノキやヒバ(または薬剤処理品)などの使用が定められています。

地味であまり目立たないですが、どれも重要です。

①についての不具合のひとつに「壁体内結露」という現象があります。

流れ込んだ空気が壁の中で冷えて露となって(結露して)留まり、その水分がカビなどを招くものですが、結論からいえば、この結露の原因は「不適切な空気の流れ」です。そこに使用される素材自体の違いは直接には関係ありません。

最近でこそ、この種の誤解はだいぶ減ってきた印象ですが、どうぞ誤解なさらぬよう。

このように、耐久性やメンテナンス性を向上させるための仕様はひととおり揃って、私の知る限り、一般に普及している印象でもあります。

これらは設計、施工時にも一目では判らないほどに、仕様・コストのどちらともに些細な違いでしかないのですが、完成後数十年におおきな違いを生む要因だろうと、私は考えています。

次回は、火災時の安全性について書きます。

「私家版 家づくりガイド」その2-5(夏涼しく冬暖かい家⑥)

冬の室内環境において、快適に過ごしていただくためのふたつの「隠し味」についてです。あれば室内環境のよさを引き立ててくれますし、無いとちょっと物足りないです。

それは何かというと、このふたつ、

・室内空気の均一化と、
・日射取得、

です。

まずはひとつめの、室内空気の均一化についてです。

・暖房機などで室内にて作り出される熱と
・室内から外に逃げてゆく熱との釣り合いがとれて、

計算上の室温は20℃とはじき出されても実際には、リビングは30℃でトイレは5℃かもしれません。建物全体としての熱のつりあいが取れていても、その分布が人間のスケール感に馴染むものでなければ、その家の室内環境は快適であるとはいえません。

暖められた空気は上昇する(冷やされた空気は下に留まります)ので平屋であれば天井付近、2階建てであれば2階部分に暖気は集まります。

夏であれば高窓をあけて排気すればよかったのですが、冬にそれでは暖房計画が成り立ちません。ふた昔くらい前の断熱性能の住宅で「吹き抜けの家は寒い」といわれた原因は、主にこのあたりにあります。

ではどうすればよいか?

水平方向と垂直方向、それとガラス窓付近をあわせた室温の不均一を解消するためには、2つの対処法が考えられます。


家の中を「複数の小さな部屋の集まり」に区切ってそれぞれを小さな室容積とし、感じられる温度差を できるだけ小さくする方法(暖房機は各主要室に分散配置して個別運転)と、


(空調的には)ワンルームの室内に暖房機1台の全館暖房として、上部に溜まった暖気をファンなどで 床下に強制的に移して(暖気はまた上昇するので)室内空気を縦方向に循環させる方法

のふたつです。

どちらにも一長一短はありますが、

①の「小分け分散型」は、

・夏季の通風通気のルートをどう確保をするかということ、
・いわゆるヒートショック、冬場の急激な温度低下による血管障害への対策をどうするのか、

②の「ワンルーム全館型」は、
・室温の均一さをつくりだしながら必要なプライバシーの質をいかに落とさないか、

が鍵になります。

※コストについては設置時・運転時をあわせて考えると、どちらもおおよそ「とんとん」です。

次はふたつめの日射取得、陽だまりをいかしてにつくるかです。

冬の太陽の軌道は夏とは違ってかなり低く、最も高い軌道をとる夏がオーバースローならば、冬はスリークオーターで投げる投手の腕の振りのように、水平線近くを鋭く掠めます。朝7時過ぎに東南東から昇って夕方17時すぎに西南西の空に沈むほどに、その日照時間は短く、日射量も夏のおよそ半分です。

太陽が真南に位置する正午の太陽高度は約30度です。このときに高さ2メートルの掃き出し窓に射し込む日差しの奥行きは、三角定規を頭に浮かべながら計算すると、和室の8畳間なら床の間の手前まで届きます(2.0*√3≒3.4メートル)。

以前のブログを振り返っていただいて、夏至のときの奥行きは40センチですから、南面に可能なかぎり大きな開口をとることは、冬の日差しを取り込むにも夏の日射を遮るにも、どちらにも都合がよいことがわかります。

以前、太陽光発電パネルを設置検討する際に、パネルメーカーのエンジニアさんにいろいろお伺いする機会があったのですが、パネルの発電効率を検討する際にもっとも注意しなければならないこととは、パネルの種類でも設置する角度でも地域でもなく、

「実際に設置するその場所に太陽光を遮る障害物がないこと」で、

それさえ確認できれば、まあなんとか発電計画は成立するのだそうです。

冬の日射取得についても同じで、障害物を避けてセオリーどおり、南面に開口を設けることが可能な配置・平面計画であれば、日射量が少ないといわれる山陰地方であっても、晴れた日にはそこが冬の陽だまりとなります。

朝起きる前の布団の中を例に出すまでもなく、冬のぬくもりは気持ちよくて愛おしく、陽だまりも日射量の少ない冬だからなおさら貴重といえるのかもしれません。それらをどこまでプランに反映できるのかを確認する作業は、なんだかほっこりしますね(^^)

以上、「暑さ寒さが負担とならない、ほどほど快適な家」について、まとめてみました。

夏と冬の熱の言い分をよく聞いて、うまく棲み分けができると、必要以上の動力に頼らなくともほどよい室内環境をつくることができます。

次回は「長持ちする家」について、長持ちさせるための現在の仕様や施工性について書きます。

「私家版 家づくりガイド」その2-4(夏涼しく冬暖かい家⑤)

今回から冬編です。

夏の「ほどほどに快適」な室内環境の「肝」は、一言で言えば「熱を逃がす」ことでしたが、冬は逆に、室内の熱を「逃がさない」ことが最優先事項です。

けれど夏に、どんなに防いでも熱が室内に侵入してきたように、冬も、外に逃げようとする熱のすべてを室内に留めることはできません。

その様子をよくみると、熱には、3つの「逃げ道」が用意されていることがわかります。

熱の3つの逃げ道とは、

①屋根と外壁(床下)
②窓ガラス
③換気

です。

つまり、建物全体から逃げてゆく熱量は、

①から逃げてゆく熱の量
②   〃
③   〃

の総量になります。

「逃げてゆく熱の総量」と「室内で作られる熱の総量」が同じならば、室温は一定を保ち、

逃げる熱が勝れば、室内は寒くなり、室内で造られる熱が勝れば、暑くなります。

たとえば、
外気温5℃、室内温度20℃ で一定であった場合に、

建物全体(逃げ道①+②+③)から「1時間当たり100」の熱が外に逃げてゆくとします。

そのときにストーブでもエアコンでもよいのですが、逃げてゆくのと同じだけの熱、つまり、「1時間あたり100」の熱を室内でつくりだしてやれば、室内は20℃に保たれます。

かなりざっくりした話ですが、これが室内温熱環境を検討する際の基本的な考え方で、このときの逃げる熱の量の度合いは、ほぼそのままその家の断熱性能となり、一般的にその性能値は、

性能値=逃げる熱の度合い ÷ その家の延べ床面積(または屋根・外壁・窓の総面積)で、あらわすことができます(いわゆるQ値)。

断熱材の性能とは、おおづかみに言うと、その「素材自体」の密度です。同密度では厚みが厚いほど熱を通せんぼできる割合が大きく、つまり高性能です。

断熱材について、布団状のものを壁のなかに入れたり、発泡スチロールのような板を外壁の下地に貼り付けたりする事例や、いろいろな商品の広告やCMを御覧になったこともあるかもしれませんが、こまかな空気層を多数重ねて熱を伝わりにくくする原理はどれも同じです。

工法を含めた断熱材選定について、諸説入り乱れてネット掲示板などでは「けっこうすごいこと」になっていたりもします。が、基本的な考え方は市販のカレールウを選ぶときと同じで、その製品に定められた施工をおこなえば必ず設計した性能値は出ます。ですから施工精度とコストをバランス取りしながら材料選定をおこなえばそれで大丈夫です。

ガラス窓が熱を通す量は、おおよそ断熱材を入れた壁の10倍です。

そして一般的な住宅では、外壁+屋根面の10%程度がガラス窓の面積です。

つまり外壁屋根面と同じだけ(10%の面積×10倍)の熱が窓ガラスから逃げている勘定になり、ガラスをふくめたサッシ部分の仕様・面積を含めた検討は、イメージ以上に断熱計画には有効で重要です。

過去に設計した住宅のデータを紹介します。

省エネ等級4の仕様、述べ床面積40坪の住宅の、それぞれに熱が「逃げる」割合は、

①屋根・外壁 40%
②ガラス窓  40%
③換気    20%
∴①+②+③=100%

と、なりました。暖房の熱源はペレットストーブ1台にてまかないす。

今年で完成から5回目の冬(2013年)になりますが、これまで快適に過ごしていただいています。が、快適な室内環境には、これら熱量計算のほかにあとふたつの「隠し味」が必要です。

やや長くなりそうなので、次回に続きます。

「私家版 家づくりガイド」その2-3(夏涼しく冬暖かい家④)

真正面からまともに照りつける夏の太陽は、そのぶんだけ強烈に地表面を熱します。そこに触れた空気はあたためられて上昇し気圧を下げ、風を招きます。熱自体は放射を続けてそのまま大気圏外に放出されます。だから夜は涼しいのだそうです。

避暑のために高原に向かうときに浮かぶ定番の疑問「どうして太陽に近づいているのに、標高が上るほどに涼しくなるのだろう?」の答えは、

「夏の暑さは、そのほとんどが(太陽光を受けた)地表面であたためられた空気によるので、標高がある程度上がって空気が薄くなれば、そのぶん伝わる熱も薄く(涼しく)なるから」 なのだそうです。

日射を防いでも、完全に防ぎきれなかった熱は一定の割合で室内に入ってきます。

そこで今回は、その熱を速やかに外に出す方法をご紹介します。

・あたためられると上昇する空気の特性を知り、
・その特性を生かした窓の配置と間取りの工夫をおこなうと、

室内には熱はこもらずサラッとして、風速1メートルの風は肌に触れて熱を奪うことで体感温度を1℃下げる効果があるといわれますが、風向きによれば、場合によっては寒いほどになります。

夏、室内の空気はあたためられて軽くなり、天井へ向かって上昇します。

多くの場合、天井面から窓の上端のあいだには「下がり壁」が付いているので、上昇は天井に阻まれ、上昇するルートをさがして水平移動しようにも壁に阻まれて、熱を帯びた空気はそこに留まり続けます。

そうならないように、風の出口を前もって計画しておきます。

具体的には壁の最も高い位置、天井に接するところには下がり壁はつくらずに、窓を設けます。逃げ場のない熱気に出口(窓)を与えてやると、ちょうど水を張ったバケツに穴をあけたように、熱を帯びた空気はたちまち外に流れ出ます。流れ出たら気圧が下がり、下部から空気を呼び込んでまた流れ出て、そこに気流を作り出します。

以前設計した住宅で、廊下の上部を吹き抜けにして高窓(下がり壁なし)を設け、明かり取りと排熱を兼ねたことがあるのですが、竣工後、梅雨時にお邪魔して廊下に立つと、湿気を帯びた空気が、汗ばんだ肌を通り抜けて、高窓に向かって流れてゆく様子がとてもよくわかりました。更に言えばこうした空気の特性は屋根裏や外壁の排熱にも応用されて、「通気工法」との名称で、今では木造住宅の一般的な工法になっています。

日本列島において夏の風は南東から北西へ吹いて、冬はその逆で北西から南東へ吹く、というのが基本的な流れです。

これは、夏はユーラシア大陸の地表面があたためられて空気が上昇し、低気圧となって太平洋からの風を呼び込み、冬はその逆に熱容量の大きな太平洋上の空気があたためられて大陸からの風を呼び込むからなのだそうです。

建築環境・省エネルギー機構の気象データによると、弊社のある境港の8月(7~22時)の最多の風向きは東北東で、お隣の米子市は北東、松江市では東で、平均風速は2~3メートルほどでした。たしかに境港の夏は、東からの風がきもちよく、冬は西風が厳しい印象です。

ただ厳密には風は、日ごと時間ごとに絶えず風向きと風速が変わります。その家が「よい風」を得るには、気象データに加えて周囲の建物の配置や実際に生活する時間帯の考慮が必要で、建物のほうにも風を招く工夫が必要です。

建物の工夫といっても特別なことは必要ありません。

季節や時間帯によって、よい風が通り抜けやすいように、南~北、東~西、下階~上階への通風経路をその建物のなかに確保しておけば十分です(とはいえこれはなかなか大変ですが)。排熱ができて上下の気流の道があれば、京都の町屋のように、建物自体が風を招きます。

この先、ひょっとしたら、人間が風をおこし雨を降らせることができる時代がやってくるのかもしれませんが、空気の流れにあわせた家づくりは、手間さえ惜しまなければ今日確実につくることができます。

次回からは、冬の室内環境について書きます。