続 広い縁側の家 

前々回のブログで模型をご紹介した、「広い縁側の家」は、外部はモルタル下塗りまでを終えて現在は養生期間、内部では開口枠とカウンターの造作が進んでいます。

改修工事であること、つまり、仕上材をはがして内部を確認してみないと分からないことから、着工からここまでの間に、いろいろな「はじめての貴重な経験」 得たのですが、今回はそれらのなかで、構造に関しての幾つかをご紹介します。

内壁と床、天井を剥して、現(あらわ)しとなった筋交い、土台、柱梁です。

上の写真の正面、「2本のたすき掛けの筋交い」が重なるところに、切れ目のような筋が見えますが、近寄ってよく見ると、これは片方の筋交いの切断面で、この状態は、現行の法令では「1本のみの、片筋交い」として扱われます。

耐震診断の際、クライアント様のご協力により、壁の一部を剥し、その部分の筋交いは上の写真と同様の「片筋交い+切断筋交い」であることが確認できていたので、残るすべての筋交いについても(安全側に見て)同様であると仮定し、建物全体の壁量を「設計図書よりも少ない状態」として計算していたのですが、残念ながら仮定通りの結果となってしまいました。

土台は、ヒノキでもヒバでもない、あまり見かけない色と木目です。これは近づいてよく見ると南洋材(秦棟梁の見解では、この年代の建物であれば、おそらくアピトン)で、現在では外部のウッドデッキなどにも用いる、非常に耐久性、対候性の高い樹種です。

今回、建物北東の柱(マツ)が2本、シロアリによる食害を受けていたのですが、土台に関しては、柱の食害箇所の周辺を含めて全くの「無傷」で、さらに言えば浴室周辺の土台は、取り替える前提で計画を進めていたのですが、蟻害も腐朽もなく、これはよい意味での想定外でした。

2部屋をワンルームにするために柱を外すと、柱の中から鉄筋があらわれました。

そしてその鉄筋は、土台から小屋梁までを緊結していました。

2000年に大改正がおこなわれた建築基準法では、柱と梁、柱と土台の接合部は、地震などの水平荷重によっておこる、柱の引き抜き防止のために、金物などで適切に補強しなければならないのですが、これらの鉄筋は、そうした引き抜きを防ぐために、当時考案されたものなのでしょう。

梁の上端と土台の下端をボルトで固定しているこの鉄筋、おそらく現行法の金物に匹敵(金物の種類によっては凌駕)する引き抜き抵抗力を持つはずで、今回撤去した数本の柱以外の箇所にもすべて、この「約半世紀前の引き抜き補強」は施されていました。

これらの鉄筋たちは引き続き、今回新たに設けた金物と一緒に、建物を地震などから守ってくれるはずです。

柱(と鉄筋)を取り外した小屋梁には念のため、上の写真のように構造用合板で曲げ補強をおこない、接合部のせん断補強には、この工程の後、壁際に添え柱を設けました。

残暑お見舞い申し上げます

今年は案外涼しいなあと思っていたのもつかの間、暑くなりましたね。皆さんのお住いの地域はいかがですか?

どうやら今年は、明日まで稼働して明後日からお盆休み、という現場が多いようです(弊社もそうです)ね。先月末から続いた暑さのなか、ここまで皆さんお疲れさまでした。

現場の皆さんもそのほかの方々も、間もなくお休みの皆さんも引き続き頑張られる方々も、適度な休息とこまめな水分補給の合わせ技で、くれぐれもどうぞ、ご自愛ください。

広い縁側の家

前々回に続き、計画案の模型を紹介します。

切妻屋根を持つ、平屋のこの建物は、元々は40年ほど前に分譲された、供給公社の規格住宅でした。今回の計画では、そこに耐震改修をおこない、併せて玄関と自転車置場、濡れ縁を増築します。写真正面に見える、屋根付きの濡れ縁部分は、内部と外部を繋ぐ「緩衝地帯」であるとともに、将来的な車椅子利用などを想定した、バリアフリーのアプローチを兼ねています。

実際に取り組んでみて分かったのですが、今回のようなシンプルな平面の平屋建てであれば、たとえ築年数が古く、経年劣化が見受けられたとしても、構造強度を「現在の建築基準法に相当するレベル」に引き上げることは、当初思っていたよりもかなりスムーズで、法令や各種基準について、かなり整えられてきているなあ、というのが率直な印象でした。

とはいえ実施にあたっては、構造体へ蟻害が進行していないことの確認と、以降の確実な防蟻処理、の二つをクリアせねばなりません

が、これも今回取り組んでみて分かったことなのですが、防蟻処理については、薬剤の進歩と経年変化に対するメンテナンスの確立がなされていて、加えて今回、床下などの現況調査について、フットワークの良い、信頼のおける業者さんとのご縁にも恵まれ(ありがとうございました)、当初思っていたよりも、はるかにスムーズな進行でした。

本計画は、構造部分については「出雲市木造住宅耐震化促進事業」の助成対象案件であり、計画全体については、「長期優良化住宅リフォーム推進事業」に併せた設計です。

そして、建築費からみると、同仕様同規模の新築住宅に比べて、コスト面で相応のメリットを伴う結果にもなっています。

このことは今後、平屋での暮らしをお考えの方々に対して、新たな選択肢をお示しできるのではないか、といった手応えとともに、引き続き以降の業務に励みます(現場進捗などについては折を見て、当ブログにてご紹介します)。

「模型のサイズは、梱包用の箱に入る大きさまで」という制限のため、今回も敷地全体を作成することができませんでした。

実際の敷地部分は、上の写真から見て、敷地左手の端に4メートルを加えた範囲まであるのですが、ここには竣工後、植物(染色体)がご専門である、クライアント様による植栽が配される予定で、どのような庭をお作りになるのか、完成がいまから楽しみです^^

島根県出雲市での計画です。

(個人的には)史上最大の大黒柱

前回のブログで模型をご紹介した「川沿いの廻り土間の家」は、実施設計を終えて、現在積算作業に入っています。

上の写真は、クライアント様のご実家を解体した際に取り置きされていた、欅の大黒柱で、ご厚意により、今回の計画に再利用させてもらえることになりました。柱の太さは各辺がそれぞれ1尺 (約30センチ) ほどもあって、私がこれまで見たなかで最大、おそらくこの先も、そうそうお目にかかれるサイズ、樹種ではなさそうです。

図らずも、これだけ大断面の古材を使うことができる貴重な機会に恵まれ、ならば曳き割って床板に、いやいやこれはカウンターに用いてはどうだろうなどなど、再利用の方法については、熱を帯びながら鋭意協議中です。

大黒柱の右手に見える柱も同様に、ご実家からの取り置き材ですが、おそらく玄関框に生まれ変わることになりそうです。

川沿いの 廻り土間の家

ホームページ内の「家づくりの流れ」でも触れていますが、弊社は原則、基本設計がまとまった段階で、計画案の模型を作り、クライアント様にご覧いただいています。

模型(50分の1)をご覧いただきながら、

・室内と外観のボリュームや質感
・室内への自然光の入る様子
・外部からの建物の見えかた

などについて、ご確認、ご検討の打ち合わせをおこなうのですが、今回は、先日お渡しした模型をご紹介します。

広大で自然に満ちた (もっと言えば、野趣溢れる^^;) 敷地に対して、建物をどのように調和させ、馴染ませてゆくのか、この課題に対して、

・深い軒と、
・軒と同じ深さの土間とを組み合わせ、
・その組み合わせを建物外周全てにぐるりと配して、

屋根付きの廻り土間とし、ウチとソトとを繋ぐ緩衝地帯として、敷地と建物の「仲を取り持って」もらうように計画しました。

廻り土間では、たとえば七輪で椎茸やサンマを焼いたり、干し柿を吊るしたり簾を架けたり、あるいは、デッキチェアを置いて身体を預けながら、側を流れる川のせせらぎに、耳を傾けてもらうこともできそうです。

屋根形状は寄棟(よせむね)とし、土間は、室内床高との段差をできるだけ小さくしながら、同時に、湿気に対する土台木材の保護を両立できるように、ひと工夫を凝らしています。