家ができてゆくシステム-「お金の流れ編 2」-(逆算プランニングその3.1)

正確なコストを把握できないために生まれるロスを排除すること、つまり正確なコスト量を把握することが、コストダウンへの第一歩です。

「そりゃそうだろ。というかコストダウン以前の話だろ」なのですが、これをコツコツとやることが、コストダウンの第一歩です。

このロス排除の方法には、その他の方法もあって、前回お話した、

①正確なコスト(=施工表面積)を把握できるだけの質と量で設計図書を完成させ積算することを含めて私が知っているのは合計3つで、

②プラン自由度を制限して且つ、生産棟数を増やし、最小限のロスを数の論理で「吸収」する
③そもそもそのようなロスを認識しない、または「知らないふり」をする

といったふうに、検討に値するのは、①、②の2つです。

オーダーメイドの家づくりを考えれば①が理想ですが、納得のゆく範囲であれば、②の手法も合理的であると思います。

ともかく、③を上手に回避することでようやく、正確な数量を把握したうえでの「本来のコストダウン」に進むことができるのですが、つくり手の端くれとして、①、②での正当な、自由な競争を強く願っています。

おかげさまで現在の傾向は、人口の減少と不況による国内着工件数の減少、インターネットの普及による、個人が扱える情報量と質の向上、そして流れの双方向性などにより「密室」が消えて、そのぶん「ガチンコ」となる空気が年々強まっている手応えです。身が引き締まる思いですが、ありがたくも思っています。

次回は、家づくりの現場の、外側の仕組みについて書きます。

家ができてゆくシステム-「お金の流れ編1 」-(逆算プランニングその3)

家づくりの「現場」が成立するための必要十分な条件は、

・人(専門工事業者)
・人(現場管理者)
・材料

の3つが揃う事です。

今回はこの3つに配分されるお金(コスト)の割合について書きます。

それぞれに、どれほどのコストなのかを知ること、とは、

①専門工事業者の作業量
②現場管理者の作業量
③材料の量

が、その現場において、どれほど必要なのかを知ることです。

大掴みにいえば(システムキッチンやユニットバスなどの住設機器や仕上げの仕様と、施工難易度が一定であれば)、作業量、材料の量は、その現場の規模に比例します。

延べ床面積30坪の家と100坪の家では、100坪の家により多くの作業量と材料、つまり多くのコストがかかります(=お金が流れます)。では、規模、コスト=坪数、床面積なのでしょうか?

いわゆる坪単価(工事費÷延べ床面積)がいまも有効な目安であるのは、延べ床面積が、住宅の規模をある程度までは示せるからです。

が、「ある程度」以上になると、いろいろと不都合が生じています。なぜならば作業面は床だけではなく、その他屋根、軒裏、外壁、天井、室内壁の5つの面があって、これらの面積は建物の高さ、形状、各階の比率と所要室の数によって、その計画ごとに異なります。必要作業量と材料量、つまりその建物のコストから捉えた「規模」とは、これら6面の表面積の合計(=施工表面積)に一致します。

これは私見ですが、古来の日本建築には室内の壁がほとんどなく、間取りや階高も一定であったことから床面積の全表面積に対する割合がおおきくて、故に床面積がその「規模」をある精度で掴むための基準として機能し重宝され、その流れを汲んで今に至ったのが坪単価なのではないかと想像しています。

左官屋さんに外壁と室内壁に200㎡の漆喰を塗ってもらうと、200㎡相当の作業量、材料費、そして現場管理費が発生します。それは150㎡でも250㎡でもなく200㎡です。150㎡だと足りないし、250㎡ならば50㎡分がロス、無駄なコストです。

そのロスを防ぐためには数量を正確に計測できるだけの図面(設計)と図面から数量を正確に計る手間(積算)が必要で、経験からいえば、現場で発生するロスは、設計・積算のコストを上回ります。

これはコストダウン以前の問題とはいえ、「正確なコストを把握できないために生まれるロス」の芽を確実に摘んでおくことが、まず実践すべき、コストダウンの第一歩です。

次回、この「第一歩」について、異なるアプローチをご紹介します。

家ができてゆくシステム-「材料と人編 」-(逆算プランニングその2)

現場において、家がどのような仕組みで出来上がってゆくのか、説明します。

住宅(建築工事)は、分業制でつくられてゆきます。それがどのような「業」に「分かれているのか」、それぞれのパートについてご紹介します。

まずはパート1、専門工事業者、「職方、職人さん」とも呼ばれます。

基礎工事、大工工事、左官工事などそれぞれの専門分野に分かれて、実際の工事をおこなう方々です。オーケストラにたとえるならば、バイオリンやフルートやチェロなど、映画ならばカメラさんとか音声さんなどの、実際に音を奏でたり写したりする「実働部隊」に相当します。

一般的な住宅では、およそ25業種のこれら専門職たちが、それぞれの部署に分かれて工事をおこなう(=施工する)ことで、家は次第に現実のカタチを成してゆきます。

続いてパート2、現場管理者です。

工事期間中、タイミングによっては5~6業種の職方が同時に現場入りすることもあります。

それぞれの作業に無理が生じて品質を落とさない(設計にも言えることですが)ように、そして設計の意図を的確に実現するために、現場に陣取って工事全体をコーディネートするのが現場管理者です。オーケストラの指揮者、映画での監督にその役割が例えられることもあります。

あっけないかもしれませんが、早くもここでもう結論です。

可能なかぎりシンプルに分類すると、

①専門工事業者、
②現場管理者、それと
③材料

を加えた3つの要素が、現場において、物理的に家がカタチを成すために必要な全てです(設計図書が揃っていることが大前提ですが)。

楽譜、楽器、演者と指揮者が揃えば演奏が成立するように、設計、材料、職方と現場管理者が揃うことが、建築工事成立に必要充分な条件です。

・(設計図書に基づいて用意された)材料を
・現場管理者のコーディネートのもと、
・各職方が加工することで

家の一部分はできあがってゆきます。そしてその作業を繰り返すことで家は完成します。

次に、この現場で、お金(コスト)がどのように配分されてゆくのかを見てみましょう。

家ができてゆくシステム(逆算プランニングその1.5)

建物予算とボリュームを初期段階に大掴みするためには、2014年の今でも、まずは坪単価から割り出します。けれど重宝するのは初期段階までで、理由はコストダウンに結びつかないからです。

その理由を説明する前にちょっと寄り道して、実際に家(建築物)がどのようにつくられてゆくのかを見てみましょう、というのが前回のお話でした。

で、そこからいきなり脱線して恐縮ですが、構造計画の話をします。

建物構造の安全を確かめる手順は、

①その建物に加わる力の大きさと向きを想定する
②それらの力が、建物のどの部分にどれだけ加わるのかを解析する
③その力に対して、各部材が安全であることを確認する、または安全な部材を選ぶ

といったように、3段階に分けることができます。

柱や梁などに流れる力の強さをその部材ごと、ひとつひとつを解析して、それぞれに適切な強度を選んでやることは、構造計画の最も重要な「肝」の部分であり、費用対効果においても最も堅実なやりかたです。どんなに高性能のダンパーでも、必要なところに設置されなければ却って危険です。

同じように、その建物ができる仕組みのなか、現場においての人と資材の動きから、建物各部分のコスト量を計ることは、コストから逆算したプランニングの一合目で、コストダウンへの最も堅実なやりかたです。

前置きが長くなりましたが、そのような動機に基づき、現場にて家が、誰がどのように関わることで物理的にそのカタチを成してゆくのか、そのシステムについて書いてゆきます。なんだかヤヤコシそうですが、本質はいたってシンプルです。

2014年の坪単価の効能と限界(逆算プランニングその1)

坪単価とは、

=ある建物の建設費÷その建物の延べ床(=1階2階など全ての床)面積です。

例えば、建設費が2000万円、延床面積40坪(*3.3=132㎡)で完成した住宅の坪単価は、2000万円÷40坪=50万円/坪、坪単価は@50万円/坪です。

この流れを逆から辿れば、

@50万円(坪単価)*40坪(延床面積)=2000万円
のように、建設費を推定することもできます。

1:敷地条件
2:建物形状
3:規模
4:仕様

この4つが全く同じであれば、上の式、
@50万円/坪*40坪=2000万円

は、新たな計画の予算としても、そのままで成り立ちます(同じ建物ですから)。

また、まったく同じではなくても多少の違いであれば、その実績はその後の有効な目安となります。そうした事例があればあるほど、あたらしい計画案を立ち上げる際の参考資料の範囲は広がるわけで、より正確な予算組みを可能にします。

繰り返しになりますが、坪単価が決まる要素、完成した住宅の価格を決定する要素とは、

1:敷地条件
2:建物形状
3:規模
4:仕様

の4つです(設計・施工者、体制の違いによる差については後述します)。

逆に言えば、この4つが定まっていなければ、その建物の坪単価が@45万円/坪なのか、@75万円/坪なのか、算出することも、それを基に目安とすることもできません。

昔々、駆け出しの現場監督時代に担当した木造住宅の工事に一度だけ、「延べ床面積*坪単価=請負金額」にて請負契約締結されていた現場を経験しました。

当時、そのことに特に違和感も抱かないまま、現場はつつがなく進んでいったのですが、結局それが最初で最後の経験だったように、どうやらこのあたりで潮目が変わったようです。

ちょうどその頃を境にして、構造や断熱性能など住宅の内容への関心が高まり、性能表示制度の制定、建築基準法の大改正、住宅政策5カ年計画に代わる住生活基本法の施行に見られるように、一般の方々の家づくりに対する関心や、国の住宅政策の方向性があきらかに変わったのだと今ならば振り返ることができます。

あれから二十年弱が経った現在、坪単価は、いまでも建物予算とボリュームを初期段階に大掴みするために大変重宝する指標のひとつです。おそらくそれはこの先も変わらないでしょう。けれども、重宝するのは初期段階までです。なぜならば、ひとことでいえばコストダウンを計れないからです。

その理由を詳しく述べる前に、ちょっとだけ回り道をします。
次回、住宅が現実のかたちを成してゆく過程で、誰がどのように関わっているのか、その仕組みを整理します。